そして、夏は過ぎていく
もうあと数日で8月が終わる。残暑と呼ぶにはまだ早いだろうけれど、また暑さがぶり返してきて、いまさら夏バテになりそうだ。
今年の夏は何してすごしたんだっけ……? と振り返ってみる。「大豆田とわこと三人の元夫」を一気見したことと、ゴールデンカムイの最新話までの無料配信をこれまた一気にむさぼり読んだことくらいだろうか。意外と充実している、ともいえる。
今年の夏の思い出は、通勤電車内での人間観察かなとおもう。いろんな人がいて、いろんな人生がある。リモートワークできない事情だってあるし、不要不急の認識は、人によってちがう。
今年の夏に電車で見かけた、ちょっと気になった人々を書き記しておく。
1.試験終わりの学生さん
6月の終わりか7月のはじめ。おそらく学生さんたちは中間だか期末試験が終わったころ。勤め先の社長の娘さんが大学入試を控えているため「娘の試験状況について」の心配事をあれこれ話してくれる。そのため、電車などで制服姿を見かけると「ああ、世の中の学生さんたちは、試験が終わってほっとしているんだろうな」と気に掛ける。試験終わりの解放感で、どこかに遊びに行きたいだろうに。それもできないなんてつまんないだろうなあと思うけど、学生さんたちはそれぞれ、工夫をしながら日々を過ごしているから個人個人のたのしみはあるのかもしれないなとも思う。
そんななか、すぐそばに立っていた女子学生さんが電車の中で本を読んでいた。タイトルは「容疑者Xの献身」。図書館で借りたらしいラベルが貼ってあった。ああ、その本は展開が気になって、目を離せないよね。と、ちらりと目線を向けたとき。本を持つ彼女の左手の甲に書かれたメモに目が留まった。
暗記パン
ん? なぜ暗記パン? ドラえもんの? ……気になるけど聞くわけにもいかない。ただ、暗記パンの固有名称を暗記できないほどに、彼女はくたびれているのかもしれないなと思いめぐらして、私は電車を降りた。
2.初老のおしゃれな男性
電車の乗り換え時に見かけた、ハーフパンツにポロシャツ。ハットをかぶった初老の男性。身ぎれいにされていて、おしゃれだった。しかし、手には気になるものを持っていた。
小ぶりの虫かご。中にはなにやら甲虫らしい黒い物体がみえる。虫かごは本当に小さいサイズで、はがき一枚くらいの大きさ。緑色で、昔っからあるタイプの虫かご。ただ、手で持ち歩く場合、大人にはかなり持ち手が小さい。というか、単純に持ちにくそうだった。
ただ、その方の手荷物はその虫かごだけだった。おそらくハーフパンツのポケットにおサイフやら携帯電話も入っているのだろうけれど。
お孫さんとか、誰かへ向けたお土産なのだろうか? 「むき出しの虫かごひとつ手にもって」 と(まづめ、心の俳句)を読んでしまった。
しかしその後、「マツコの知らない世界」で叶姉妹が紹介されていた「マイクロミニバッグ」を見た。叶恭子さんは虫かごのように見えるマイクロミニバッグに蝶々のブローチを入れているとおっしゃっていた。あの方ももしかしたら最先端のおしゃれとしての虫かご……だったとは思えないこともない。
3.あつさ対策
右隣の席に座った男性。かなり体格が良く、汗だくだった。マスク越しにも呼吸が荒いことがうかがえた。(マスクをしているせいで呼吸が荒かった可能性もあるのだけれど)
次の駅で降りるし、あまり気にし過ぎるのも良くないなと思っていたのだけれど、男性はカバンをごそごそと探り、なにやら箱を取り出した。その箱は「冷えピタ」だった。
え? もしかして発熱してる? ワクチンの副反応? それとも……。一瞬のうちに不安がさっと心に広がる。その不安はわたしだけではなく、前の席に座っていたおじいちゃんの目線からも見て取れた。
箱個包装されている冷えピタの袋をびりびりっとやぶり、ジェルシートを取り出す男性。熱中症対策とか鳴らいけど……と思っていたら、カバンに入っていた携帯用バッテリーをとりだし、それにぺたりと貼り付けた。そうして何事もなくタブレットを起動させ、ゲームを始めた。
あ、自分じゃなくて機械の暑さ対策か……。たしかに大事だよね、熱持つといけないし。そう思いながらもあからさまにほっとした自分がいた。目の前のおじいちゃんの目から不安は消えていたが、眉をしかめ、怪訝な様子がうかがい知れた。おじいちゃんの気持ちも、ちょっとわかる。
いろいろと制限の多い夏。それも今年で2回目だ。楽しみにしていた予定をキャンセルせざるを得ない、ということもあるだろうけれど。そうだとしても、いろんな夏の過ごしかたがあるし、小さな楽しみは見つけられる。自分なりの息抜きというか、マスクを外せる場所があればいいなと願う。
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