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事実は小説よりも奇なりっていうけれど。

週末、ちょっとだけ帰省した。

父の相続に関して、行政書士さんにお願いしていた遺産分割協議書が出来上がってきたので、その書類に署名捺印をするためだった。

普段の帰省ならば、友人に声をかけたりして少しでも会う時間をつくるのだけれど、今回はとにかくばたばたして、その時間もなかった。

ほんとうに署名捺印するためだけに帰ったようなものだったけれど、母と姉の、元気そうな顔がみられたのは良かった。もっとも、まだ二人とも父の話題ばかりしていて、ちょっと心配でもあるのだけれど、

遺産の額は全然たいしたことない。けれど、母と姉は疲れていたし、わたしも大阪と神奈川を何度も行き来してホトホトくたびれるくらいならば、お金を出してその道のプロに頼んでしまおうと決めてお願いをした。

わたしは父の遺産相続について、お金のこと以上に気になっていることがあった。それは、父の戸籍謄本を取り寄せて、目にすることだった。

わたしたち家族は、父の実家に関してあんまり知らない。親戚づきあい、みたいなことは形式的にはあるし、父の葬儀にもお線香をあげに来てくださっていた。

けれど、兄弟について、父の口からあまりはっきりと語られたことはない。母は「いちいち詮索してもしゃーないやん」というあっけらかんとした性格だし、わたしたち姉妹も、わりと母のその気質を受け継いでいる。

ただ、母ですら、一度もお会いしたことのなかった父のお兄さんがいた。面と向かって父に聞いたことはないけれど、すごく酔っ払ったときにお兄さんの名前をちらりと漏らしていた。そのお兄さんは何年か前に亡くなられて、父は葬儀に出かけていったそうだ。

また、父が生まれるよりもずっと前に、幼くして亡くなられたお兄さんがいることは、姉もわたしも知っていた。

父自身が言わない、知らせないでおこうと決めていた自分の家族のことを、戸籍謄本をみると全部記されている。戸籍謄本なんて、単なる書類だし、まじまじ見なければそれで済むんだろう。とはいえ、わたしはやっぱり気になる。

おじいちゃんやおばあちゃんの誕生日も、ふたりがいつ結婚したのかも、はっきり分からない。

「いまと違って、誕生日なんかわざわざ祝わへんやん。結婚記念日とかもしらん」と父はこともなげに言っていた。本当に知らないのか、おぼえてないのか。その辺りはよくわからない。

なんだか、父があえて口にしなかったいろんな物事を、たった一枚の紙きれにすべて書かれているんだと思うと複雑な気持ちもあった。


行政書士さんがおいていった「戸籍謄本の写し」(原本はまだ使用する可能性があるため)は、想像以上に複雑で、姉とわたしは「これなに?」といいあった。どうやら、戦前の戸籍法では「家制度」といわれる戸籍登録で、今現在の「世帯ごと」の記載ではないらしい。

おじいちゃんの兄弟の名前とか、これまたよく知らない人たちの戸籍がずらずらっと書かれていてぎょっとしてしまった。

古い戸籍謄本は、書かれている文字の解読すら難関だった。「え? この人の名前、全然読まれへん。次に読む人がいるっていう前提で書かれてないやろ……」など、文字すら読み取れない。

姉やわたしが想像もしていなかったことが、戸籍をみてわかってしまい、動揺が隠せない。全部ぶっちゃけられないので、うやむやな書き方になっていて、読んでくださっている方には「何を言いたいんだ? さっぱりわからない」と思われそうだ。

けれど、わたし自身、数日前にみたものが、いまだに理解できないし、ちょっと混乱してもいる。父自身も知らされていないような事実が、そこには記されていた。

「こんな小説みたいなことってある?」と姉もおどろいてしまい、父の相続どころの話ではない。わたしとしては、小説にするには複雑すぎるからこのままの設定ではダメだろう。

もう少し簡略化して、いつか小説のネタにしてやろうとたくらんでいるけれど、わたし自身、理解できるのかは、わからない。



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