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子どもたちとサンタクロースのちえくらべ

どこもかしこも、クリスマスに彩られている。スーパーマーケットではクリスマスソングが流れて、お菓子がたっぷりと詰まったブーツが店先に並んでいる。

わが家ではクリスマスに、特別になにかをすることはない。子どももいないし、特にケーキを食べることもない。夫婦でプレゼントを贈り合うこともしない。

夫からは結婚まえに一度だけ、クリスマスプレゼントだよと言ってもらったものがある。

それは三足千円のくつ下だった。くつ下のなかにプレゼントがこっそりと忍ばせてある……なんてこともない。正真正銘の、くつ下だった。

わたしが夫の家にいったときに「くつ下がなくて寒い」と、なんの気なしに言ったことを覚えていて、それをプレゼントしてくれた。ありがたいといえばありがたい。ちょっぴり残念な気もしたけれど、それは仕方ないことだろう。

わたしが子どものころにもらったクリスマスプレゼントで、忘れられないものがある。

それはファミコンのカセット。「スーパーマリオブラザーズ3」。

今調べてみたらマリオ3は1988年10月23日に発売されていた。わたしが七歳のころだ。もしかすると、発売してすぐにほしいとなったわけじゃないかもしれない。

わたしには三歳年上の姉がいる。姉はかなりゲームが好きだった。「マリオやりたいわー! なあ? ひろちゃんも一緒遊べるし!」もちろん一緒に遊びたいわたしは、姉に賛同した。

姉と一緒になって、サンタクロースに直訴した。サンタの代理人として申請を受け付けた母は「ちょっとそれは、プレゼントとしては高いなあ」と渋っていた。サンタ側の意向としては「姉妹揃って、そのプレゼントがほしいなら、考えてもよい」という返答だという。

わたしは当時ほしいおもちゃもなかったらしく、姉と遊べるならそれでいいか、と考えたらしい。わたしが何か、ひどくガマンした記憶はない。そうして「クリスマスプレゼントにマリオ3のファミコンカセットをください」と、姉と一緒にお願いした。

クリスマスイブの夜に、わたしたち姉妹は枕元に靴下を置いていた。しかし姉かわたしのどちらかが「くつ下をたくさん並べていたら、サンタさんはどうするんやろか?」と言い出した。

ふたりとも試してみる価値はあるとして、引き出しに片づけられていたくつ下をかたっぱしから枕元に並べた。このくつ下全部に、おかしとか入ってたらいいねと姉はにたにた笑っていた。

ふたりでひとつのクリスマスプレゼントだと、どちらね枕元においてあるのだろうか? とか心配しなくてもよいような心配事をして眠ったことを覚えている。

朝になって目がさめると、枕元に並べていたたくさんのくつ下のほとんどが、なくなっていた。

わたしにも姉の枕元にもお菓子はおかれていたけれど、クリスマスプレゼントらしいものは置かれていなかった。「あれ? もしかしてやっぱり高いから却下だったのかもしれない……」と、姉とすこしさみしい気持ちになっていた。もしかしたら、プレゼントがおいてあるかもね、とか、ふとんからでるの寒いねと言いながら、ぐずぐずとパジャマから洋服に着替えた。

しかし、着替え終わり、寝室から出ようかと立ち上がった時に洋服ダンスの取っ手部分に、違和感を感じた。

姉とわたしがたくさんならべたくつ下が、ぐっるぐるのリースのように丸く形作られ、その真ん中にきれいな包装紙で包まれた小さな箱がきちっと収められていた。

姉とわたしは、見つけた瞬間に嬉しくなって、階段をかけおりた。そうして、いつも食事をするこたつの上で包装紙をあけて、その中を確認して、喜び合った。母は、そのそばでにこにこ笑っていた。


わたしにとって、幸せなクリスマスの思い出だ。けれどおとなになった今、ふたりのうち、どちらかの枕元に置くとけんかになるんじゃないだろうかとか、くつ下をこっそりとリース型にしたりとか、父と母がこっそりと話し合ったり、暗闇の中でリースをこつこつと作ってくれたことを考えると、なんだかとても幸せな気持ちになる。



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