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ナイトメア・イルミネーション

毎年この季節になると、「一体、あれは何だったんだろう?」と思い出すことがある。

今から11年前のこと。夫とある場所へイルミネーションを見に行くことになった。年が明けたら入籍しようと話がすすんでいて、まだ結婚はしていない時期だった。

なぜイルミネーションを見に行くことにしたのかは覚えていない。わたしも夫も寒がりだし、こたつに入ってアニメでも見ているほうが好きなのに。本当にどうして行くことになったのか、全く思い出せない。

イルミネーション自体は家族連れやカップルですごく盛り上がっていた。場所は伏せておくけれど、クリスマスの時期に合わせて開催されるイルミネーションは今でも人気があるようだ。

わたしたちも「わーキレイだね」とそれなりに楽しんだ記憶はある。寒かったけれど、来てよかったね、と。

しかし、その夜のこと。

すごく怖い夢を見た。

その夢の中で、わたしは白っぽい着物を着ていて、何かに追いかけられていた。とにかく逃げなくちゃいけない。捕まったら殺されてしまう。周りには僧兵というかイメージとしての「武蔵坊弁慶」みたいな服装の人たちが何人かいて、わたしを守ってくれていた。

古いお寺みたいな場所に結界を張って一時的に避難していたけれど、もう敵はすぐそこまで来ている。とにかく逃げなくてはいけない、というところまで追いつめられていた。

わたしは「敵につかまってはいけない。あなただけはとにかく逃げのびなくては」と諭された。誰かが身代わりになると言ってくれて、その時着ていた着物を脱いで、代わりに隠れ蓑みたいな羽織(ハリーポッターで言うところの透明マントみたいなものだと思う)をかぶって、その場から走って逃げていった。

お寺から出た瞬間に、追いかけてきている者たちの気味の悪い怨念ともいえる空気が身体中にまとわりついてきた。その、気味の悪いぞっとした感触をすごく覚えている。夢の中のできごとなのに。

そのあたりでわたしは目が覚めた。ああ、とにかく気味の悪い夢だった。ふとんに入っているのに、鳥肌が立っていた。もう一度寝ようかと思ったけれど、なんだか眠るのが怖くて、うつらうつらしている間に夜が明けた。

朝になって、なんだかすっきりしないなあと思いつつ「変な夢見たわ」と夫に言うと「あ、おれも。すげー変な夢で、気持ち悪かった」とかぶせてきた。

ふーん、どんな夢? とたずねると、恐ろしいことに、わたしが見た夢とほとんどおんなじ内容だった。

ただ、違っているのは、夫は誰かを守っている僧兵だった。僧兵目線では、守っている姫のような存在の人を逃がしたのち、攻めてきた敵と対峙したらしい。その敵がゾンビだか亡霊のような集団で、とにかく得体が知れなくて怖かった。敵を倒したかどうかは分からないところで目が覚めたという。

わたしもほとんどおんなじ夢だった、わたしは姫の役だったというと、「ああ、ちゃんと逃げられたの?」と心配してくれた。いや、夢の中の話だし、逃げてる途中で目が覚めたから、結局どうなったか分からないのだけれど。

ただ、夫もわたしも、「ゾンビだか、亡霊だかはとにかく気味が悪かった。夢で良かった」と言い合った。

イルミネーションが開催されている場所は、どうやら一部では有名な心霊スポットでもあるらしい。「気味の悪い夢は、そこで何かを連れてきてしまったか、感じてしまったせいかもしれないね」と夫は言っていた。どちらか一方が見た夢なら「単なる夢の話やん」と笑い飛ばせるけれど、ふたりとも同じ内容の夢となると、笑い飛ばせそうもない。

だからといって、なにか怪奇現象にあったわけでもない。ただ、夫婦そろって怖い夢を見ただけで済んだ。それでも、この時期になると「あの夢なんやったんかな?」と、どちらからともなく話題にのぼる。

不思議だねと言い合うものの、イルミネーション見に行ってみようか? という話には絶対にならない。もう二度と、あの夢は見たくない。





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