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甘さのないドラマ「スカーレット」

「望みは捨てたくないけれど、甘い終わらせ方だけは絶対ない。今までの流れを見てたらそうじゃない?」

「そうだね……」

三月中旬に夫と話し合った。朝ドラ「スカーレット」の終わり方についてだ。

「スカーレット」は、本当に甘いところのないドラマだった。序盤からいろいろと心をくじかれるような出来事があったのだけれど、それはどうにか乗り越えてきた。

しかし。最終話まであと数週間というところで、かなりきついエピソードがやってきた。

主人公である喜美子の息子、武志の病気が発覚する。

このエピソードは、何も取ってつけたわけではない。主人公、川原喜美子のモデルとなった陶芸家、神山清子さんが実際に体験されたことだ。

「スカーレット」はドラマだし、史実とは大きく違う点もある。だからこそ、武志の病状に一縷の望みを見せてドラマを終わらせることもあるんじゃないか?

一緒にドラマを見ていた夫は、そういっていた。というよりも、そう願っていた、願いたいという方がニュアンス的には正しい。

わたしだって、武志には生き延びてもらいたい。というかスカーレットを見ていた視聴者全員がそう思っていただろう。武志は本当に本当にいい子だった。

ただ、「スカーレット」には甘さがない。とにかく厳しい現実をみせる。現実は厳しい、というより日常にはいろんな側面があることを思い知らされるドラマだった。ただ、だからこそ見ている人がどんどんのめり込んでしまうドラマでもあった。

喜美子の息子、武志は病気を患い、そして旅立って行った。シーンが描かれることはなく、最終話でナレーションで淡々と告げられた。

武志が登場した最後のシーンで、武志は笑っていた。ただ、それが見られただけで良かった。

ストーリーを作る時、どんでん返しがあったほうがいいとか、共感があったほうがいいとか、主人公が成長する物語が定石など、いろいろな手法がある。

けれど、今回スカーレットをみて「甘くない」ことこそが、重要なのかもしれないと感じた。「絶対にこういった展開に進んでほしくない」と、読者や視聴者がいくら願っても、そちらに転がらない。いくら辛い展開でも。

スカーレットの2話目で、「なんで人は楽しい思い出だけで生きていけんのやろ」と、子供時代の貴美子がぽろりとこぼしている。

楽しい思い出だけで、人生は構成されていない。辛いことも、苦しいこともすべてをひっくるめたものが日常としてあり、それらが連なったものが人生となる。

苦しみの中にも楽しみはあり、楽しみの中にも悲しさはある。それをまざまざと見せられた半年間。甘さのない、とてもいいドラマだった。





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