三谷幸喜『大地』【#まどか観劇記録2020 14/60】
明日世界が滅ぶとしたら、私は今日も明日も劇場に行っていたい。
※セリフを含むネタバレがあります。
むしろセリフを残しておきたくて書くnoteです。
ネタバレがお嫌な方は読まないでください。
私は作品の感想を書く時に、これから見るネタバレがお嫌な方も読めるような感想を目指しているのですが、3月に劇場が閉鎖されて数か月振りに再開した時に見たこの作品については、セリフが刺さりすぎて、これを書かずにはいられないと思ったので、今回に限ってはセリフも含めたネタバレありの感想noteになります。
現状(2020年夏の現実)とリンクするような舞台設定
あらすじ・舞台設定
物語の舞台は文化改革が行われているとある共産主義国家。反政府主義のレッテルを貼られた俳優たちが収容された施設が舞台です。役者としてしか生きる術を知らない俳優たちが、「演じる」行為を禁じられた極限状態の中で織りなす群像劇
演じるとは何か? 笑うとは何か? 生きるとは何か? 三谷幸喜流俳優論
(公式より引用して要約)
ここまでは3月時点で決まっていました。新型コロナの流行で劇場の扉が閉ざされる前に決まっていたのです(このチラシを私は2月に受け取っているから)。
そこから『大地(Social Distancing Version)』として、おそらく脚本や演出にも修正が加えられて改めて幕が開いたのが7月1日。6月の10日間分の公演は中止になったものの7月からの公演はなんとか開幕しました。
とはいえ、この設定、今の状況、なんだか出来過ぎていませんか?
作品の中では独裁政権のせいで演じることができなくなるけれど、現実の社会では新型コロナのせいで演じることができなくなっている。演じたくても演じられないし、演劇を見たくても演劇が見れない、こんな今の社会が作品とリンクしていると思うのです。
まるで、演劇や舞台、エンタメが苦境に立たされているこの状況のために、それを打破するきっかけとして存在するためにこの作品があるかのようでした。
Social Distancing Versionとは
個別のセリフについて感想を語る前に、演出家三谷幸喜さんのすごさをひとつ書き留めておきます。
Social Distancing Versionということを聞いて私は、客席が間引かれるのだな、そのために配信も同時に行われるのだなと思っていました。
実際に客席は前後左右に空席をはさむ50%以下の稼働率でしたが、それだけではありませんでした。
あまりに自然に行われていたので途中まで気づかなかったのですが、演者同士もソーシャルディスタンスを保っている…!
接触はなし、1m以内の距離にも近づかない。舞台上にはだいたい9人ほどの人物がいるにも関わらず、です。まったく違和感がなかった。驚きです。あとからサイトを確認したら三谷さんのひと言。
要は、面白さのポイントがひとつ増えたとお考え下さい。
やっぱりこの方はすごいなと思わせられた出来事でした。
現状を反映した刺さるセリフの数々
4つほど書き残しておきたいセリフをあげます。
現実を受け入れて利用してその上を行く。
何事があっても我らから奪うことのできぬものがある。想像力だ。
(※想像力は創造力かもしれません)
まさにこの作品と今の演劇界を表しているようなセリフだと思います。
個人的には制約があってこそ新しい表現や豊かな作品が生まれると思っていて、実際に毎日新しい舞台芸術が生み出されているように感じます。今の状況はそれは苦境ではあるのだけど、それをなんとかしていこうというたくさんの方の努力と創造力が本当にまぶしいのです。
どんな状況でもエンタメの灯は消えない。それを信じ続けられるのはこのセリフをまさに体現してくださっている方々がいらっしゃるから。
来年の今頃ぼくらは何をしているんだろう。全く先が見えない。
先のことはよくわかんないけど今日やるべきことはできる。私たちは役者でしょ?
今の状況がどうなるかは誰にもわかりません。未曾有の事態です。
でも、先が見えないからって止まっていられないのもまた事実です。
今日やるべきこととして舞台を続けていってくれている人たちがいる。では、私がやるべきことはなんだろう。もし観に行けるなら観に行くこと。観に行くことが出来なくても、配信という新しい形の観劇を提供してくれている作品であればそれを見ることもできる。
なにより、日々の目の前のことを見つめ生きること。それぞれのやるべきことをやる中でしんどくなったら、周りにもやるべきことをやる人たちがいることにどんなに励まされることか。
私たちは最も大事なものを手放してしまった。
観客だ。
どういったシーンで発されたセリフかは伏せますが、衝撃的なセリフでした。舞台の上から観客が最も大事なんて言葉が聞けるなんて。。。
観客が必要なんだと言ってくれていると受け取りました。
当然、観劇なんて自分が観たくて行っているだけなので、それは本当にそれだけなのですが、いつも素晴らしいものを魅せてもらって帰ってくる、そんな行為が、少しでも舞台の上に対して恩返しできているのかなと思ったら、ここ数ヶ月観劇できなかった時間も相まって、なんだか殊更にぐっときてしまいました。
実は私は最初はライブ配信で見たのです。いったん払い戻しになって申し込みした第1クールのチケットが外れてしまいWOWOWでの配信で見ました。そうして、観たことでやはり劇場で観たいといてもたってもいられず残りの第2クール、第3クールと申し込んでようやく観に行けたのです。
観れてよかった。
観客として存在できてよかった。
観客は必要だと言ってくれた。
だから
私は
明日世界が滅ぶとしても、今日も明日も劇場に行きます。
それが私のやるべきこと。
数か月ぶりの観劇がこの作品で心からありがたく、うれしく思います。
今後の上演スケジュール
東京公演は8/8(土)まで、翌週の8/12(水)~8/23(日)には大阪公演があります。ライブ配信の有無はわからないので公式情報をチェックしてください(東京公演は8/2まででした)。ぜひ、今しか見れない、そしてこの状況だからこそより切実に迫ってくる感動を味わってみてください。
おすすめの作品などを教えていただけるととてもうれしいです。