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『天保十二年のシェイクスピア』【#まどか観劇記録2020 9/60】

その作品が面白いかどうかは、最初の掴みを見たらわかる気がします。

なんて勝手なことを言ってみましたが、70歳になってしまって連日の公演の疲労が堪える、、、という木場勝己さんの前口上から幕が開いた『天保十二年のシェイクスピア』は、木場さんが脚本の井上ひさしさんを「少し前歯の出た方」と表現されたあたりから、ああこれは面白いなという予感を感じさせました。

前口上の中で木場さんがおっしゃった「芝居は趣向」という言葉がこの作品を端的に表しているような気がします。

シェイクスピアへのオマージュ?

物語のベースは江戸末期の人気講談「天保水滸伝」という博徒、侠客の勢力争いであり、その物語のそこかしこにシェイクスピアの作品要素が散りばめられている、というもの。

天保十二年とシェイクスピアは一体どう結びつくんだというところですが、シェイクスピアが生きたのは1564年~1616年、天保十二年とは1843年のこと、しかも日本は鎖国中とのことでおそらく、ほぼ、関係はありませんね。前口上で隊長(木場さん)がおっしゃっていたように「まあ、この時代に実際にシェイクスピアが伝わっているわけはない」です(笑。

作中で取り上げられているシェイクスピアの作品数は37。つまりシェイクスピアの戯曲すべてです。ただし、ただ一言タイトルのごろ合わせを叫んだだけという取り上げ方も(笑。まあ、おそらく、シェイクスピアが好きで好きで好きだった井上ひさしさんがシェイクスピアにささげた壮大なオマージュなのかもしれません。

芝居は趣向

ひとつ間違えば自己満足で終わってしまうかもしれない作品(どんな作品でもその可能性があります)が過去3度も上演され、今回の4度目も成功しているのは、
・脚本井上ひさしさんの趣向 ・演出家藤田俊太郎さんの趣向
・役者の趣向 ・制作の趣向
たくさんの「趣向」が凝らされているから、だと思いました。

幕が開いた瞬間に現れた三階建て四面二段構えのセット。宮川彬良さん率いる演奏隊も舞台に上り生演奏を奏でる。巨大なセットを手動で場面転換するやり方は日本の伝統芸能を見ているような感覚にもなり、脚本にシェイクスピアが散りばめられているなら、演出には日本の伝統が散りばめられている。

そんな中、役者の方々もきっぷのよい芝居を見せていらっしゃいました。なかなか濡れ場が多いことに驚いたのですが、振り切った芝居でイケナイものを見てしまったという気まずさもなくむしろ終演後はすがすがしかったです(笑。

高橋一生の佐渡の三世次

最後に主演の高橋一生さんについて。役者の幅が広いなあというのが最初の感想です。実は舞台の高橋さんを見るのは今回が初めてだったのですが、テレビで見る役柄とはまた全然違っており、そして、とても、自然でした。
 舞台の芝居は少なからずわざとらしさというか、テレビなどに比べて力の入った演技だと思うのですが、もちろん舞台的な演技をしつつ高橋さんは自然だったんです。舞台なのに自然、自然なのに、圧倒的な存在感。どんなに舞台の端でも登場した瞬間に目が引き寄せられる、そんな印象を受けました。そして、どれだけ醜い男のメイクをしてもイケメンでした(笑。

突き抜けて一本筋が通った悪党という役柄も、高橋さんの表現する三世治は、複雑に絡まったいろんなものを内包していて、それなのに心に穴を抱えていて、その醸し出す何かが悲しすぎて憎めない。そんな人でした。ラストは、、、圧巻です。

性と死(誤字ではありません)。人の生々しさがつまった舞台でした。

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** 観劇直後の興奮冷めやらぬツイートはこちら **

残念ながら新型肺炎による政府からの自粛要請の影響で東京ラスト二日、大阪公演全てが中止になってしまいました。最後の最後まで最前線でエンタメを届けようとしてくれたことに感謝しかありません。秋にはBlu-rayが発売するそうです。生で見るのとはまた違う感動があると思いますので気になる方はぜひ。素晴らしい作品でした。


おすすめの作品などを教えていただけるととてもうれしいです。