見出し画像

【マッチレビュー】Manchester City vs Arsenal 両者の命運を分けたもの

 新型コロナウイルスの感染拡大によるプレミアリーグの中断期間が終わった。再開初戦はいきなりのビッグ6対決。またペップ・グアルディオラ監督とミケル・アルテタ監督の師弟対決でもあった。
 結果は3-0でシティの圧勝。スコア上で大きく差が生まれたわけだが、両者の命運を分けたのは何だったのだろうか。

スタメン

画像1

 シティはラポルトが復帰、期待の若手エリック・ガルシアが先発。CFはアグエロではなく、ジェズス。
 アーセナルはティアニーが復帰し、左SBを代行していたサカが右SHに。フラメンゴからレンタル中のマリが先発し、ダビドルイスはサブ。エジルはベンチにすら入らず。怪我ではないとのこと。
 5人の選手交代が可能。

試合の主なイベント

8分:ジャカが負傷。セバージョスin。
24分:マリが負傷。ダビドルイスin。
45+2分:ダビドルイスの処理ミス。スターリングのゴール。
50分:ダビドルイスがボックス内でマフレズをホールディングしてPK与える。退場処分。
51分:デブライネがPK決めた。
88分:エリック・ガルシア負傷。
90+1分:フォーデンのゴール。

シティによる相手ビルドアップ阻害

 アーセナルはCBとGKからビルドアップを始めるので、シティはまずここに圧をかける。シティの狙いは、①ロングキックを蹴らせること、②ムスタフィにボールを持たせること、の2つ。ロングキックを蹴らせればDFがマイボールにするし、ムスタフィにボールを持たせれば、簡単にロストさせることができる。

 これらの目的を達成するためにシティが取った手段は、相手CBとGKからショートパスのコースを奪うこと。(相手から選択肢を奪うやり方は単純だが、その分前がかりになるので、最終ラインの質的優位がある試合だからこそできる芸当であろう。相手がリバプール、バルセロナ、レアル・マドリーあたりになってくると、別のやり方をするはずだ。)

画像2

 ジェズスはゲンドゥージへのパスコースを、マフレズはティアニーとセバージョスへのパスコースを切り続ける。さらにマフレズは、相手左CBにプレスをかけてミスを狙い続けた。結局ダビドルイスはマフレズにやられてしまった。
 またギュンドアンはゲンドゥージを、デブライネはティアニーとセバージョスを見張っていた。

 アーセナルはこの戦術に対処できないまま(対処する前に?)ダビドルイスが退場してしまった。ウィロックが降りてみて、D. シウバがそれについて来たらその後ろにサカが入ってロングパスを受ける、ついて来なかったらそのままウィロックがレノからパスを受ける、ということをやってみればよかったかもしれない。

 (注)シティによるアーセナルのビルドアップ阻害がはじめて観察できたのは、ジャカが負傷退場して以降のことだった。したがって、アーセナルのビルドアップは、アルテタ監督が最初に用意していたそれとは異なる可能性が高い。もしジャカが負傷していなかったとしたら、また違った景色が見られただろう。

アーセナルによる相手ビルドアップ阻害

 アーセナルは最終ラインにムスタフィがいるので(?)、シティのように思い切ったプレスはかけられない。アーセナルの狙いは、少しでも相手のスピードを遅めること。過去のアーセナルはシティのカウンターにことごとくやられてきた。

画像3

 ラポルトがボールを持つと、エンケティアがエリック・ガルシアへのパスコースを遮断。アンカーのギュンドアンにはゲンドゥージがマンマークして自由を与えない。ウィロックはD. シウバと心中。全体的に人に付いて守っていた印象。

 しかしシティにはエデルソンがいる。CBからのパスコースを封じられても、エデルソンのロングパスでビルドアップは解決する。アーセナルのレノとの大きな違いはココである。レノも素晴らしいGKだが、ロングパスという点では(当然だが)エデルソンほど正確ではない。アーセナルに「絶対ボールを収めるアタッカー」がいれば話は別だが。

シティのビルドアップの工夫

 シティは百戦錬磨のペップのチームなので、相手にビルドアップを邪魔されても、いくつか打開策を持っている。エデルソンのスーパーな能力に依存せずともビルドアップが遂行できるように、多くの引き出しを持っているのだ。

画像4

 開始3分にシティがFKを獲得したシーン。スターリングがインサイドレーンに顔を出してボールを落とし、D. シウバ経由でメンディが左サイドをドリブルで上がり、スターリングにパスを送ったシーンだ。ここではムスタフィがスターリングに付いて行って方向転換で振り切られてしまったため、マリがファウルでスターリングを止めた。(ムスタフィのこの対応は悪くない。スターリングが速いだけ。)

 このスターリングの工夫のアイディアは、直接アーセナルに脅威を与えた。これ以外にも、シティは多くの打開策を示していた。たとえば、①ジェズスがギュンドアンの隣に降りてゲンドゥージのマークをぼかす、②デブライネが降りる、③ウォーカーが絞ってギュンドアンの隣に立ち、エリック・ガルシアからマフレズへのパスコースを開通させる、などなど。これだけ対応されたら、アーセナルとしては厳しいものがある。

試合を決めたもの、アーセナルに必要なもの

 ここまで書いてきたように、両者の一番の違いは、ハイプレスの強度と、それに対する処置の有無であった。この2つはすぐに身に付くものではない。ペップのシティでさえ、4年かけてやっとこのレベルにたどり着いたのだから、アーセナルもまだ焦る必要はない。いまアーセナルに必要なのは、時間と投資。ムスタフィとダビドルイスをずっと引っ提げたままこれら2つを身に付けるのは現実的ではない。来シーズンにはサリバが来るが、それだけでは足りないのではないか。もう一人、怪我しないちゃんとしたCBが欲しい。

所感

 シティのプレミア優勝は絶望的なので、UCL優勝に本腰を入れるだろう。8月のレアル・マドリー戦に向けてコンディションを調整しながら、戦術の練度を上げていく期間である。相手CBのミスとはいえ、中断明けに勝てたのは好材料と言える。

 アーセナルはこの試合に勝てるとは思っていなかったのではないか。来季のUCL出場を果たすには、シティ戦とリバプール戦以外を全勝する、というプランで行くのが現実的だ。
 個人の出来としては、ベジェリンとティアニーが安定していた。ベジェリンはウィロックとのマークの受け渡しがスムーズで、ムスタフィの穴も埋める活躍をした。またサカがFKキッカーとしても活躍の場を広げたのは喜ばしい。セバージョスは大チャンスを作れるところで、判断を誤ってしまったのが気になる。おそらくレアル・マドリーに帰っても居場所はないだろう。守備は少し上手くなったのかな。ダビドルイスは、またチームに水を差してしまった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?