思考が一本の川となって|2024/6/1
喫茶『横尾』でアイスカフェオレを飲もうと家を出たけど、なんとなく通り過ぎた。湿気が少なく、日がじんわりと落ちてきた夕暮れ。井の頭公園までたらたらと。お気に入りのベンチに座って、連れてきた本をひらく。題名は『夜のピクニック』。こないだできた友人が「自分の核になったモノ」で挙げていて、自分もそうかもしれないと、また読み返したくなった。これまで何度か買っても人にあげてしまうので、いま持っているのは中古品。はじめて出てくる登場人物には必ず丸の囲みがされている。前の所有者は本に書き込みをしながら読む人だったみたい。そんな愛らしさがある。
いつも同じところでハッとする。
「素敵」とか「心地いい」ではなく「特別」と表現しているのが気になる。たったそれだけのことなのに、ただ歩いているだけなのに、なんで普通じゃないんだろう。この後に出てくるこの一文が、きっと関係している。
「思考が一本の川となって自分の中をさらさらと流れていく」
他のスケジュールに邪魔されず、思考し続けられる機会。それが自分だけでなく、周りの友人たちにも起きている状態。発される言葉はだんだん枝葉の部分が削がれて、抽象的で断片的だけど、質量を持つようになってくる。心地よい疲労感からくる、凪の状態。真っ直ぐ深海にストンと落ちていくような緩い降下。落ち着きと、アドレナリンが同居する、あの不思議さを特別と感じるのだろう。
わたしも、あなたも、今きっと何かを考えている。「普通」なのに「普通じゃない」ことが、もっと日常の中にあったらいいな。でも疲労感や長時間とセットなのだろうか。又吉直樹のYoutube企画『百の三』は、意図的にその状態に持っていこうとするいい企画だ。思考の実験をしてみたい。
向かいのベンチでは、女子大生が音楽に合わせて踊っていた。TikTokの撮影をしているみたいで、andymoriの『すごい速さ』がスピーカーから流れている。何度も何度も撮り直すたびにはじめに戻るが、ついに曲が最後まで再生されることはなかった。なんともいえない、心のモヤモヤ。
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