見出し画像

書評:ステファノ・マンクーゾ『植物は<知性>を持っている』

『植物は<知性>を持っている』ステファノ・マンクーゾ,NHK出版,2015年出版 

 植物に知性はあるのか?
 植物の驚嘆すべき性質の数々を明らかにし、この問いに答えるのは世界的な植物学者であり本書の著者、ステファノ・マンクーゾ氏。

 私たちと全く異なる方法と機能でたくましく生きる植物の世界を覗く事で、物の見方自体さえ見直さざるを得なくなる、そんな刺激的な1冊です。

 「植物」というと、可憐で癒される、緑を見ると元気になる、食料にもなり人間を助けてくれる、そんな好意的な言葉の数々が出てくるのではないでしょうか。その一方で、あくまで植物は受動的で自分の頭で考える存在ではない、私たち人間はそんな固定観念を持っているように思います。 

 本書は、人間がなぜそのような凝り固まった考えを持つに至ったのか、といったところから丁寧に紐解き、植物が感受性豊かで賢く、時にしたたかですらある知的な存在であることを明らかにしていきます。

 植物が人間と全く異なる構造を持っていることが、植物への理解を阻害する大きな要因の一つになっていると著者は述べています。

 植物は自ら移動することが出来ないため、人間と全く違った形で進化してきました。人間が脳を中心とした中央集権的な構造を持っているのと対照的に、彼らは脳、目、耳といった特定の器官を持つ機関を持ちません。

 しかし目がなくても光を感じてその方向に育つことが出来(屈光性)、土を介して音の振動を感じ、口がなくとも根は土にある水分やごくわずかな化学物質を有用なものもそうでないものも感知し、脳がなくともそれを識別することが出来るのです。 

 その上、根は水不足などの危険を葉に伝えたり、植物同士で葉が重ならないように譲り合ったり、すでにミツバチが訪れた花粉も密もない花の花弁の色を変えて別の花に向かった方がよいと暗に伝えたり、時には花粉を運ばせるために匂いで虫をだましたり…このように、1個体の中でも外界とも活発なコミュニケーションを行っているのです。そうして植物は古くから生命のゲームに勝利し、繁栄してきました。

 本書は私たちの知らない植物の知略に富んだ生態を細やかに伝え、植物がいかにタフで賢い存在であるかということを教えてくれます。同時に、<知性>とはなにか、という本質的な問いを私たちに突き付けてきます。

 家のベランダに住んでいるバジル、近所の公園の木々、山の上の植物がひとしれず育んでいる驚異的な世界の一端を知ることは、私たち自身の日々も豊かにしてくれます。

 著者の言葉通り、植物は「人間への、人間の知性へのすばらしい贈り物」なのかもしれません。

*学会誌に寄稿した内容を転載しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?