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思春期のモヤモヤが晴れた日

地元の進学校に通った高校時代
成績は下から1/10。数学だけは標準前後だったけど、他の科目は最低ランクだった。

勉強がすべてではないといっても、特に充実した毎日を送っていたわけでもない。友人は数人しかいなかったし、一緒に遊びまわるほどでもなかった。クラスメイトが「昨日、合コン行ってさ〜」「今週にみんなで〜へ遊びに行く」っていうのが聞こえて、「高校生って、もっと楽しくすごすもんなんだろうな」って思いながら、何も行動ができなかった

部活はバスケ部に入っていたが、下手だったので、チームメイトからは邪魔者扱いだった。下手でもおもしろキャラだったら、チームメイトとも仲良くできただろうが、陰キャだった自分はコミュニケーションもうまくとれない。チームでも浮いていたと思う。
中学でもバスケ部だったが、中学では勉強できたのでキャラがたっていたし、そこに自信を持っていたので、当時のチームメイトとは積極的にコミュニケーションをとることができた。
一方、高校では自分より勉強できる人ばかりだったため、唯一の自信の拠り所がなくなり、ますます周囲の人と接するのが苦手になった。

家では反抗期。親に対しては「うるせーな!」と強い口調で口ごたえする。父が単身赴任をしていたので、家にいるのは母と自分と妹。唯一の男ということもあり、養われの身でありながら偉そうに暮らしていた。
自分がイライラしてだまっている日などは、母も妹も話しづらくなり、家自体が暗かった記憶がある。

なんかずっとイライラしていたと思う。モテない、友達が少ない、勉強できない、スポーツもできない自分がイヤでたまらなかった。かといって現状を良くするための努力もしない。逃げていた。でも、現状に不満があってイライラしていた。

学校は毎日通ったし、部活もほぼ毎日参加した。「行きたくないな〜」とずっと思っていたが、サボる勇気もなかった。

ある日の部活で、メンバーを3チームにわけて試合をすることになった。顧問の先生が、身長や能力を考えて3チームに振り分ける。
自分は最後まで名前を呼ばれなかった。忘れられたのだ。意図的にではないと思う。下手なので
最後の方で振り分けようと思ったまま、呼ぶのを忘れたのだろう。
そこで、自分の気持ちはポッキリ折れた。高2の冬だったから、約2年部活に参加した。部員数は多かったし、下手だったから、目立たない。お荷物だったのは認識している。でも、メンバーの1人にもなれなかったのかと、当時の自分としてはショックを受けた。
家に帰って、玄関で大声で泣いた。母はびっくりしていたが、恥ずかしくて話せなかった。ただ、「もう部活は辞める!」と伝えた。母からは「一晩考えて決めたら?」と言われたが、翌日も気持ちは変わらなかったので、退部届を出した。

その後は暇になった。放課後と休日は部活で忙しかったのに、それがなくなったら暇でたまらない。勉強すればいいのだろうが、ここまでずっと勉強しなかったし、授業もわからなくなっていたので、いまさらどうこうする気力もわかなかった。

この時期に唯一の救いは、クラスメイトのOさんを目で追うことだった。優しそうで可愛らしい子だった。同じクラスになったとき、恥ずかしげに笑う表情を見て一目惚れした。
といっても、話すことはほとんどなかった。こちらから積極的にかかわる勇気はない。Oさんも女の子同士でいることが多いので、たまたま話せるって機会もなかった。
「Oさんが彼女になってくれたら楽しいだろうな」と妄想することで、少し生きる気力が湧いた。
ただ、現状は何も変わらない。自分へのイライラ、モヤモヤはずっと続いていた。

ある日、母とケンカした。きっかけは覚えていないが、たいした話ではないと思う。単に自分がイライラしていたから、母のした小さなことが許せなかっただけだろう。自分が原因であることは認識していた。
この時に「こんな日常を変えたい!変わりたい!」と強く思ったのをよく覚えている。

そこで自分は「Oさんと付き合えるようになったら変わる」と短絡的に考えた。今冷静に考えれば、少ししか話したことがないクラスメイトとなぜ付き合えると思ったのか。若さなのだろう。その時の自分は「気持ちを伝えれば、いずれ付き合えるかもしれない」と考えていた。

そこからは珍しく行動が早かった。文化祭の連絡で知っていたOさんの携帯電話に電話をかけた。

「はい…」
「もしもし、Oさんですか?同じクラスの(自分)です。」
「えっ、(自分)くん?どうしたの?」
「えっと、話をしたいことがあるから、今から会えないかな?」
「今からは難しいかな。シャワー浴びて、着替えたから」
「そっか…。(どうしよう)」
勢いでかけたが、先のことをまったく考えていなかった。焦ってきた。すると、Oさんの方から
「じゃあ、明日一緒に帰らない?◯時に正門のところで待ち合わせして」と提案してくれた。
「そうしよう。ありがとう。じゃあ、また明日」

気まずい思いはしたが、とりあえずOさんと話すチャンスは作れた。それも、Oさんの方から明日会う提案をしてくれたのだ。若い自分は期待で胸が膨らんだ。

次の日の放課後、正門のところで待ってくれているOさんを見つけた。
「今日は、ありがとう」と、恥ずかしがりながらも、できるだけ笑顔で話しかけた。近くで見たOさんはやっぱり可愛かった。

しばらくはクラスのこととか他愛もないことを話した。緊張して、いつも以上にうまく話せない。ただ、2人の家は高校からそう遠くないので、チャンスの時間は少ない。
信号で立ち止まった時に、意を決して伝えた。
「前からOさんのことを好きでした。付き合ってもらえませんか?」


そこで、Oさんは、最近まで1つ上の先輩と付き合っていたけど別れたこと。もうすぐ受験生だから、勉強に専念したいと思っていること丁寧に教えてくれた。
(先輩と付き合っていたのか。知らなかった)と、当時の自分は驚いたが、そりゃそうだ。今まで接点がほとんどなかったのに、Oさんのことを詳しく知っているはずがない。この告白は無謀だったのだ。

自分が明らかにショックを受けているのを察してくれたのだろう。Oさんは「でも、ありがとう。嬉しかったよ」と、優しい笑顔で言ってくれた。
付き合えないのは明白だ。彼女なりの社交辞令だったのかもしれない。

ただ、人から認められることに飢えていた自分にとってこの一言がとても嬉しかった。緊張もあり、首の後ろ側が熱くなっていたのを今でも覚えている。
Oさんと別れたあと、自分の思いを伝えられたこと、Oさんに嬉しいと言ってもらえたことで、気分が高揚していた。(全然ダメだと思っていた自分だけど、行動できたし、好きな人に嬉しいと言ってもらえた)と、人にやっと自分を認められた感じがした。

思春期のモヤモヤを晴らすには十分だった。
その時から笑顔が増えた。親の話を前より聞くようになり、冗談も言うようになった。
勉強も始めた。塾の自習室に通うようになり、高1の基礎からやり直した。すると、どんどん成績が上がってきた。それまで下位だったんだから、上がるしかなかったのだが。
勉強ばかりしていたわけではない。ゲーセンに寄ったりして勉強しない日もあったが、やるときは集中して勉強した。それでも、周囲から驚かれるくらいのスピードで成績は伸びていった。
以前と集中力が大きく変わった気がした。自身が出てきたことで、(やればできる)と思えるようになった。

結果として、志望していた大学に入学することができた。以前と明らかに変わったのは成績くらいだったが、気持ちはスッキリしていたし、表情も明るくなっていたのではないかと思う。

Oさんには感謝している。ろくに話したことのない自分に急に告白されたのに、丁寧に対応してくれた。正直迷惑だっただろうと思うが、嫌な顔をせずに「嬉しかったよ」と言ってもらえて自分は救われた。

急に告白を決意した自分の選択が正しかったのかはわからない。ただ相手をびっくりさせるだけの無謀な行為だったかもしれない。
ただ、その頃の自分にとっては、それまでできなかったことをやれた日だったし、人に認められた実感を得たきっかけだった。
あの日を境に、思春期のモヤモヤが晴れて、行動力が生まれた。自分にとっては大事な日だった。

おかげさまで、今は妻と娘がいる。妻にはいきなり告白はせず、ちゃんと段階を踏んで仲良くなった。
大事な家庭があるのも、あの時の選択があったからかもしれないと思う。それくらい自分にとっては大きな行動であったし、反応もインパクトがあった。

仲良くない人にいきなり告白することはおすすめしない。でも、もしモヤモヤするのが続いているなら、思いきった行動をしてみるのも良いかもしれない。自分のように失敗してもいい。でも、そこから何か思わぬきっかけが生まれるかもしれない。



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