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煙草と坂道~作品に現れる書き手の生きざま

「円香さん、煙草を吸っていたの?」
先日発刊になった同人誌の合評会で、仲間の女性に突然聞かれた。男性主人公が煙草を吸う描写がやたらに艶っぽいというのだ。

彼女の指摘通り、学生時代に少しだけ煙草を吸っていたことがあった。
今回執筆した掌編は、日常の不条理かつ小さな事件に接した中点男性を主人公にしており、心の動きとくすぶりを表現する小道具として、煙草を使った。
ささやかな描写の中に、紫色の煙を眺めていた若かりし私の姿がクロスオーバーしていた、ということを、彼女からの指摘で知った。 
(ちなみに、敢えて男性を中心軸にしたのは、物語を客観的に描くために用いる手法を真似たものだ)

作品を描く時、書き手の心象や今までの経験、時代背景が滲み出て来るものだ、と、いろいろな方から教えていただいた。

筆者の心象風景に影響を与えるものに「坂」がある、と、札幌の文学研究者の方が教えてくれた。
彼の指摘はここでは細かく書かないが、坂のある街に育った人と、フラットな街に育った人間で風景の捉え方や、育まれた思考回路が違うのではないか、というものだった。
その指摘は私に少なからず衝撃を与えた。
それから時々、私は「この街がもっと違う構造をしていれば、どのような生活をしていたか」と想像するようになった。
でも、まだ血の通った思考に追い付かない。
やはり、経験が与えるインパクトの大きさに勝るものは無いのだろう。

次第に満ちて行く月を眺めながら、素の自分をさらけ出すのも悪くないと思い、この作品は肉付けして書き直して、応募可能な地方文学賞に出そうと決心した。



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