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アメリカン・レモネード

「お勧めのカクテルをお願いします、ワインかビールで」
バーテンダーはゆっくりうなづいて、ワインのボトルを取り出した。

長かった髪の毛を、数日前に切り落とした。髪を切って周りに騒がれるれる年齢では無くなっていたが、さすがに周りの人は少し驚いたらしい。
4年間働いていた職場を異動することになった時、決別した。
負けたわけじゃない、先に進むことを決断しただけ。

「アメリカン・レモネードです」

目の前のグラスは透き通ったレモンイエローで、ガーネットのように赤いワインが浮かんでいた。
ゆっくりかき混ぜると、水面が溶け合って夕焼けが広がっていった。
自家製レモネードと赤ワインの混ざりあったカクテルは、甘酸っぱく、ほのかに苦かった。

アメリカン・レモネードのカクテル言葉は「忘れない」という。
この日々は全部無駄じゃなかった。
次に進むだけ。
悔しかったことも、他愛の無い日常も、失敗したことも、全部溶かして、忘れない。

4年前のあの日、踏み出したから、背中を押してもらえたから、その後も色々な存在に支えられたから、出会えた人々、見られた景色を思い出しながら、それを飲み干した。

明日は、きっとレモネードに浮かぶような朝焼けがみられる。

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