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旅立ちの朝に

受験の下見の日、ロシアがウクライナに侵攻したとニュースが流れた。
慣れない宿のテレビから、その国の大統領の無機質な演説が聞こえた。
その男が好きだと言っていた秋田犬は、忠実で友好的で争いを好まない生き物だったはずだ。

この子がお腹にいた時、イラク戦争が始まった。
椎名林檎が唄う『茎』を聞いて、まだ安全な場所に我が子をかくまいたいと思った。
でも、いつか産み落とさないといけない。自分の力で守り、逃げ、生きることを教えないといけない。
そして、命は産まれた。

卒業式の朝、ウクライナでは泣き声が聞こえていた。
学校には、少し愁いをはらんだ笑顔の若者たちが咲き誇っていた。
いつの間に、こんなに美しく強くなったのだろう。
こんな寒い朝に送り出さなければいけないなんて。
こんなに寒い春に背中を見送るなんて。

平和をとなえるだけで、自動販売機でコーヒーを買うように戦争が終わるわけでない。
頑張れ、と急に竹槍を持たされても戦いなんて終わらない。
ここで叫んでも戦争は終わらない。
お金と力を持った人々の利害関係の折り合いがつくまで、当たり前の生活を送っていただけの人々が、日常が、街が、壊されていく。
それでも祈らずにはいられない。
地上の命たちが、春が暖かいものであるように。

おめでとう、ありがとう。

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