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ゴールデンハムスターとロボロフスキーハムスターの兄弟が市場へ買い出しに行くよ。

森の小さな家に、ゴールデンハムスターのお兄ちゃんとロボロフスキーハムスターの弟が仲良く暮らしていました。

夏の終わり頃、ふたりは街の市場まで買い出しに行くことにしました。

人間の街は大きくて、真ん中に立派なお城がありました。

お兄ちゃんハムスターは言いました。

「人間は大きいから、踏まれないようにはじっこを歩くんだよ」

弟ハムスターは頷き、ふたりは手を繋いで市場のはじっこを歩いて行きました。

お兄ちゃんハムスターは、くだもの屋さんの前で立ち止まりました。そして、くだもの屋さんのおじいさんの靴を、鼻先でトントンつつきました。

おじいさんはお兄ちゃんハムスターに気づくと、

「おや、来たかい」

と言って、店先のさくらんぼの中から立派なのをひとつ選び取り、小さな布切れに包んでお兄ちゃんハムスターに渡してくれました。お兄ちゃんハムスターはそれを肩に担いで、

「どうもありがとう」

と言いました。そして、弟ハムスターが肩かけカバンの中から銀貨を1枚取り出して、おじいさんに渡しました。そうするように、お兄ちゃんハムスターに言われてきたのです。

おじいさんは銀貨を受け取ると、

「ちょっと待ってな」

と言って、銅貨を3枚取り出し、弟ハムスターに渡しました。弟ハムスターはそれを受け取って、肩かけカバンの中にしまいました。

ふたりはおじいさんにお礼を言うと、手を繋いでまた歩き始めました。お兄ちゃんハムスターが言いました。

「おつりをもらったから、何か好きなものを買おう。何がいいかな。」

弟ハムスターは少し考えると、鼻をクンクンさせ、お兄ちゃんハムスターの手を引いて花屋さんの方に歩き出しました。

花屋さんの店先には大きなひまわりがありました。

「お兄ちゃん、ひまわりがいいな。ひまわりの種を少し分けてもらえないかな。」

お兄ちゃんハムスターは花屋さんに来るのは初めてでしたが、弟のために何とかしてあげたくて、弟の手を引いて花屋のおばさんに近づいていきました。

お兄ちゃんハムスターが花屋のおばさんの靴を鼻先でトントンしようとするより先に、花屋のおばさんさんがふたりの姿に気づいて、こう叫びました。

「ねずみよ!ねずみがいるわ!」

そして、花屋のおばさんは両足をバタバタと踏み鳴らし、その場で右へ左へ、前へ後ろへと動き回りました。

ふたりはびっくりして、繋いでいた手を思わず離してしまいました。そして踏まれないように走って、それぞれ別々の方向へ逃げてしまったのです。

お兄ちゃんハムスターは、市場の裏側の、建物の壁ぎわまで逃げて、そこでハッとしました。あたりを見渡しても、弟ハムスターの姿がありません。

くだもの屋のおじいさんのところまで走っていき、尋ねましたが、おじいさんはわからないと言いました。お兄ちゃんハムスターは弟ハムスターのことが心配でしかたがなく、とても困ってしまいました。

その時、突然大きなラッパの音が鳴り響きました。

「女王陛下が通ります。道を開けてください。」

そんな声が聞こえると、兵隊さん達を先頭に、立派な馬車が市場の間を通って行きました。

お兄ちゃんハムスターは、女王陛下の行列を見るのが初めてだったので、しばらくぼんやりと見つめてしまいました。

だけど、弟ハムスターのことを思い出し、こう呟きました。

「きっと弟は言いつけを守ってはじっこを歩いているはずだ。」

お兄ちゃんハムスターは市場のはじっこをキョロキョロ見回しながら、くまなく探しましたが見つかりません。そうしているうちに、お城の門のところまで来てしまいました。

「あっ!」

お兄ちゃんハムスターは何かを見つけ、叫びました。

お城の門の前に、弟の小さな肩かけカバンが落ちていたのです。中には銅貨が3枚入っていました。

お兄ちゃんハムスターは弟がお城の中にいるのかも知れないと思い、門の小さな隙間から中にもぐり込みました。

そこはまるで別世界でした。美しい花がたくさん咲きほこり、噴水、女神の彫刻、ライオンの像など、見たことのないほどきらびやかに飾られた前庭に出たのです。

先ほどの馬車が停まっている扉の前には、兵隊さんが2人、両脇に立っていました。

馬車がどこかへいなくなったので、お兄ちゃんハムスターはすかさず扉に近づき、こっそりと調べましたが、お城の門にあったようなわずかな隙間もありません。

その時、困り果てているお兄ちゃんハムスターに近づく影がありました。

それは、フカフカした毛並みの真っ白い猫でした。

お兄ちゃんハムスターは驚いて逃げようとしましたが、食べられる!と思うと怖くてその場で固まってしまいました。

その時でした。

「あなた、お城の外から来たの?」

その白い猫は、お兄ちゃんハムスターに話しかけてきたのです。

とても落ち着いた声でした。襲いかかってくる様子もありません。

お兄ちゃんハムスターはまだビクビクしながら、言いました。

「弟が、お城の中に、いるかも、しれなくて…」

その声は震えて、自信がなくて、今にも消え入りそうでしたが、白い猫は答えました。

「女王陛下は、動物がお好きよ。こちらへいらっしゃい。」

お兄ちゃんハムスターは白い猫にゆっくり歩み寄ると、ピッタリとそばに付きました。

「みゃおん」

白い猫が扉の前でそう鳴くと、兵隊さん達が重い扉を両側から開けました。

お兄ちゃんハムスターは、兵隊さん達に見つからないように、白い猫が入るのと同時に、すばやく扉の中へと入りました。

白い猫に付いて行くと、赤いじゅうたんが敷かれた長い階段を昇った先に、また扉がひとつありました。

白い猫がその前でクルリと回ると、

「みゃおん」

とひと鳴きしてお行儀よく座ったので、お兄ちゃんハムスターもつられてその場に座りました。

するとすぐに扉が開いて、白い猫がスルリとその中に入ったので、お兄ちゃんハムスターも慌てて中へとすべりこみました。

「あら?マリィ。お客さんを連れて来たの?」

お兄ちゃんハムスターが顔を上げると、豪華なドレスを身にまとった1人の少女がにこやかに座っていました。この人が女王陛下のようです。

扉がバタンとしまったので、お兄ちゃんハムスターが振り返ると、女王陛下のお付きの人がお兄ちゃんハムスターをチラチラと横目で見ながら、扉を閉めて、扉の脇に立ったところでした。

お兄ちゃんハムスターが戸惑って女王陛下を見つめていると、女王陛下が言いました。

「この子、あなたの仲間なのかしら?市場で倒れていたのよ。」

女王陛下が鳥かごの中からそっと取り出し、お兄ちゃんハムスターに見せてくれたのは、気を失った弟ハムスターでした。

お兄ちゃんハムスターはすぐに近づいて、鼻をクンクンさせながら、一生懸命、弟ハムスターの体を揺すりました。

すると、弟ハムスターは目をぱちくりさせて起き上がりました。

「あれ?ぼく、どうしてこんな所にいるの…?」

弟ハムスターはまだぼんやりしながらそう言いました。

「目を覚まして良かったわ。きっと仲間なのね。怪我はないみたいだから、一緒に帰れるわね。マリィ、お城の外まで、この子達を案内してくれる?」

女王陛下が優しく微笑むと、白い猫は、みゃおんと鳴いて、ふたりを部屋の外へと連れ出しました。

そして階段を降りて、重い扉を通り、門のところまで案内してくれました。白い猫が、みゃおんと鳴く度に扉が開いていくので、弟ハムスターは不思議に思いながらも興味津々でした。

「マリィさん、ありがとう!」

お兄ちゃんハムスターがお礼を言うと、弟ハムスターも慌てて「ありがとう!」と叫びました。

白い猫はひときわ上品にみゃおんと鳴いて、お城の方へと戻って行きました。

こうしてふたりは、森のお家へ帰ってくることができたのです。

お兄ちゃんハムスターは言いました。

「花屋のおばさんにはもうこりごりだけど、また市場へ買い物に行こうね。」

弟ハムスターもニコニコして頷きました。


おしまい

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