ガロンボトルビジネス最前線 【その1】「田舎は、空気も水もウマイ!」・・すべてはそこからから始まった・・・
<始まり>
私がガロンボトルビジネスに関わり始めたのは、昭和の終わりの年のことでしたから、15年前ということになります。
温泉好きが高じて群馬の山奥に移住していた私が、「事業がうまく行かないのだけど、相談に乗って欲しい」と友人から請われたのがきっかけでした。
「田舎には素晴らしいものが沢山あるけれど、どれも生産性に乏しいから、田舎に在るもので事業を考えるというのは難しいかも知れないね。」と話している内に頭に浮かんだのが、「水」でした。
その時分、私自身時々東京に行くことがありましたが、自分たちで建てた丸太小屋の脇から湧き出ている湧水を飲みつけている私には、東京の水を飲む勇気はもうありませんでした。群馬の人達からすると、東京の人達は自分たちの下水を飲んでいるという意識があります。そして、その下水には糞尿や生活雑排水のみならず農薬すら含まれています。水道局の水処理は有機物対策に追われ大量の塩素を施しますが、農薬等の化学物質に対する対策は万全とは言えません。また、すり抜けてしまったある種の有機物と塩素が反応してトリハロメタンという発ガン性物質を生成してしまうことが公に知られ始めた時期でもありました。トリハロメタンという存在が、飲料水が下水を源水としていると人体にどういう影響を及ぼすかという事実を、私達に突きつけて始めていたのです。
そこで、東京にいる時はペットボトル入りのミネラルウォーターを買って飲むことになるのですが、それはそれでとても心許ないことをしているという印象から抜け出ることは出来ませんでした。飲み水はペットボトルで賄えても、食べ物から摂取する水までも問い始めたら、きりがないという事にぶち当たってしまうからでした。
都会の人が田舎を訪れる時、「空気と水がおいしい!」と誰もが思います。それは都会が自然から隔絶されている状況を物の見事に現していますが、同時に私達の文明が何かしらとても重要なものを置き去りにしながら進んできてしまった事の証左でもあります。私達の進歩が、結局空気と水を汚し、その汚れた下水を取りあえず飲める代物に変えるという堂々巡りに費やされるならば、この進歩に未来はありません。「空気と水」という自分たちの健康や生存を大きく左右するものを二の次の問題とせずに、それらを中核に据える文化というものの存在に、私たちは気がつかなければなりません。
「空気」は運べないが「水」なら運べる。汚れた河川の代わりに、瓶詰めにした「天然水」を東京に運ぼう!「天然水」ならば豊富にあり、生産性を気にかけることもない。「水」は飲み比べれば、誰もがその違いが分かるのだから、事業として成り立たせることに問題はない。そして、スモッグがドームのように覆うヒートアイランド・東京に、清浄な天然水で風穴を開けてみよう。水は高いところから低いところに流れる。そして、浸透圧を使って細胞膜をすり抜けて、周りとの均衡を整える。汚染された「水」を濾して薬品で辛うじて腐敗を食い止めている都会の水道水には期待できないけれど、「天然水」には環境を浄化したり中和させる能力が秘められている。
-それらが、私が田舎暮らしを通じて、感じていたことでした。
こうして、私たちはそれぞれの想いを果たすべく、友人は事業再生を私は田舎で得た物を都会に環流させる試みを、「全ての源=水」を通して開始することになったのです。
時は昭和62年、まさにバブルの崩壊時、価格破壊という言葉が登場し始めたのもこの頃からでした。
「水」を始めようとは決めたのですが、何をどうするかということは全く霧の中でした。まして、傾きかけていた事業の再生が一つの命題である限り、時間的な制約の中、多くの資本をかけることもなく事を進めて行かねばなりません。それはある意味でとても面白いシュチエーションで、自分たちの知恵試しに他なりませんでした。参考にするものが手近にあるわけではなく、断片的にある情報を掻き集め、後は自分たちでその情報の隙間を埋めて行かねばなりません。
アメリカ映画や外国の旅の途中で見かけた透明な大型ボトルが、私達の頭の片隅にありました。ただ、いざそれに関する情報を探してみると、なかなか直ぐに見つかるものではありませんでした。それでも、徐々に雑誌の切れ端の様な情報が集まり始めました。そして、日本でもこのビジネスを始めているところがあったのです。
それは「木曽の水源水」という商品で、5ガロンのボトルに詰められて、東京の中でも地域を限定して宅配されていました。聞くところに拠ると銀座のお医者さんがはじめた事業ということでしたが、今でも息の長い商売を続けています。私の知る限り、日本で最初にガロンボトルビジネスをを始めた第1号が、この「水源水」だと思います。
私の友人の会社は、アイスクリームの問屋でした。アイスクリームの問屋というのは、保冷車にアイスクリームを載せコンビニや商店に届けることを生業としています。顧客の数も多く関東一円に手広く事業展開をしていたのですが、利幅が少なく天候にも大きく左右される事業で、コンビニの使い走りとしてじり貧状態に陥っていました。ただ、配送員と車があることの優位さをガロンボトルのウォータービジネスに生かさない手はない、自分たちの得意のエリヤからお客様の獲得が可能かどうかの探りを入れていけばいいのだからということで、スタートが切られました。
<水源の選定>
東京の水はまずいからと言っても、田舎の水なら何でも良いというわけには行きません。どこの水がよいのだろう?ということで最初に頭に浮かんだのは富士山の水でした。しかし、実際に忍野八海を訪れてみても、何かしっくりこないものがありました。そうこうしている内に、NHKのテレビ番組で「日本水紀行」という番組の初回で、群馬県の箱島湧水が放映されたのです。樹齢800年の大杉の根本を洗うように湧き出す湧水の量は1日3万トン、10万人の飲料水を賄える量とのことでした。箱島湧水はその湧水量もさることながら、地元住民の保全活動が評価され日本名水百選にも選ばれ、また汲みやすさもあって毎日多くの人が水汲みに訪れます。そのことがNHKの「日本水紀行」の初回放映に結びついたようでした。
灯台もと暗し!ということで早速箱島に行ってみると、流れ出る湧水が老齢で見事な紅葉の木の下に滝を作り、流れ落ちていました。その奥にある見上げるほどの大杉は全部で3本、その1本の真下から止めようもない清水が湧き出している光景は、見る人全てを唸らせるだけの迫力がありました。その大杉の下には石に彫られた箱島不動尊が控えていましたが、辺り一帯が神秘的な雰囲気に包まれ、霊水を汲みに訪れる多くの人を魅了しているようです。沢山の容器を抱え、或いは台車に積んだ人々が行列を作り出していました。備え付けの柄杓で味見をしてみると、それは驚くほどすっきりと体中に広がり、ほのかな甘みが口の中に残りました。
「これだ!」と思った私達は、この箱島湧水を鑑定してもらうことにしました。成分分析表を片手に、私達は小島貞夫先生を訪ねました。小島先生は「おいしい水の探求」という名著の作者ですが、元多摩川浄水場長として、東京オリンピックを控えた時期の汚染された都水道局の源水と不断の格闘をし、その経験を生かし第一線で水の研究を続ける「水博士」です。小島先生は、実に気軽に私達の申し出を受けて下さり、全くの素人の質問にも事細かに対応して下さいました。その先生が、私達の手渡した成分分析表を見ると開口一番「これはおいしい水ですね!」と仰いました。それはただのお世辞ではなく、先生が数値として明らかにしたおいしい水の条件に、如何にぴったりと符合してるかを説明して下さったのです。(小島先生のおいしい水の条件を別掲)
私達は大船に乗った心地で、小島先生の研究所を後にしました。
<水処理方法>
これだけバランスの良い源水を、熱処理によって損ないたくない。そこで、私達は厚生省の資料を取り寄せ水処理に関する研究を始めました。当時日本のミネラルウォーターというと、ウイスキーの水割り用というイメージしかありませんでした。一方、円高と輸出入の不均衡から諸外国からの輸入が奨励され、ヨーロッパからのミネラルウォーターが店頭に並び脚光を浴び始めていました。ヨーロッパのミネラルウォーター、特にフランスのものは殺菌をしません。文化の違いと言ってみればそれまでですが、フランスでは体にとって有用であることが立証できないと「ミネラルウォーター」という称号は使えません。そして、その有用性とは源水に由来する生菌(細菌)を含め、あるがままの状態で人間の手を加えないことが前提とされているのです。乳酸菌のように、ミネラルウォーターに含まれる生菌が人間に果たす役割を認知し、自然と人間の関わりを、ごく自然なままの状態に保とうという考えが、彼らの思想の根本にあります。また、源水に由来する生菌は、その源水に進入しようとする別な菌を排除しようという働きもするとされています。
日本に輸入されているミネラルウォーターの代表的なものはフランス産のため、その輸入に先立ち、日本のミネラルウォーターの水処理方法も法的な整備が要求されました。つまり、それまでは熱処理しか認められなかった水処理方法に、「80度30分の熱処理に相当する」別な処理も認めるという条項が加えられたのです。
そこで、様々な国で行われている水処理として、紫外線・オゾン殺菌、フィルターによる除菌が、指定される3段階にわたる殺菌効果試験を満たせば、認められることとなりました。また、無殺菌に関しても周辺環境の保護や厳しい品質管理を前提として認められることになりました。
私達は紫外線殺菌を第1候補として、実用化の試験を始めましたが、その過程で出たいくつかの疑問を持って北里大学を訪れました。洗剤会社を通じて、北里大学内にある北里環境科学センターの奥田先生を紹介されたのです。訪ねたところは大学の研究所の生物室でしたが、ミネラルウォーターの製造に関するノウハウを持ち、新規参入社に具体的な指導もしているとのことでした。そこで、私達はメンブランフィルターを用いたミネラルウォーターの精密濾過と出会い、濾過除菌が、無殺菌を除いて一番源水の成分を変化させない方法だと言うことを教わりました。
そして、採水地の保全や採水タンクの設置方法からメンテナンスに始まり、製造に関わるありとあらゆることを学びました。素人の私達がミネラルウォーターの製造者としての知識を獲得していく過程で、この出発点は無くてはならないものだったということは言うまでもありません。
<製造機械>
源水が決まり、水処理方法も決まりました。その頃には、透明な大型容器の情報も揃い始めていました。容器に関しては、国内では製造されていないためアメリカから輸入にしなければならにことも分かってきました。そして、ボトルがそんな状況だったので、ミネラルウォーターのボトルの洗浄機械も充填機械もアメリカから輸入せざるを得ない事となりました。
アメリカにはIBWA、インターナショナル・ボトルド・ウォーター・アソシエーションという組織があり、毎年全米のどこかの都市で展示会が開かれているという情報を得た私達は、「百聞は一見にしかず」と出かけることにしました。円高の進行に伴い1ドルがちょうど100円になった時でした。アメリカで感じる実勢レートは1ドル=200円程度なので、全てがとても安く感じられてなりませんでした。フェニックスの町で行われていた展示会では、大きな会場をガロンボトル関連の商品が埋め尽くしていました。洗浄充填機、ボトル、ウォーターサーバー、ボトル運搬用のラック、キャップetc・・・
そして、会場の外にはデリバリー用の専用車の数々。日本での少ない情報に喘いでいた私達にとっては、見る物全てが驚きでした。
私達はその中からスティールヘッド社製のスタンダードミニという機種を選定しました。この洗浄充填機は、幅2m奥行き1.5m程度のコンパクトな機械ですが、1時間に5ガロンボトル60本、日産480本の製造が可能で、スタートアップとしては最適なものでした。注文をして、それが手元に来るまでの3ヶ月間はひたすら英文のマニュアル書の翻訳作業に追われました。なにしろ自力で輸入をし、それを設置し動かさなければならないのですから・・・。
20フィートコンテナの中に周りを木で組んだ箱に収められたスタンダードミニは、およそ1ヶ月遅れで私達の手元に届きました。が、どのように届けられるかということを承知していなかったために、コンテナから降ろすだけでも大変な作業となりました。木箱にはフォークリフトのガイドがなく、しかも、それはコンテナの中央部に据えられていました。
以来、マニュアル書というものは概要を伝えることはあっても、必要な事柄はほとんど書かれているものでは無い!という事実に何度となく直面する事になりますが、外国製の機械はたとえ機械が理解できても、部品を手に入れること自体が困難だという事も思い知らされることとなりました。
<営業>
山国の日本では古来より良質の水に恵まれ、「水にお金を出す」という感覚が育つ必然性はありませんでした。私たちの営業がスタートしたのは、ちょうどミネラルウォーターの需要がウイスキーの水割り用から家庭での飲料用にシフトを始めた頃でしたが、それでも最初は思うに任せない状態が続きました。スタート時点では、ミネラルウォーター事業の失敗例は枚挙に暇がありませんでした。多くの食品メーカーがミネラルウォーター製造を手がけては、撤退を繰り返し、また商品の特性上地方自治体の町村興しとしても製造が行われました。ただ、ペットボトルでのミネラルウォーターは寡占化が続き、それに伴い多くの参入社が敗退を余儀なくされていました。
私たちは元より、ペットボトルで大企業に戦いを挑む程、大胆でも無謀でもありませんでした。私たちがガロンボトルを選んだ理由は一にも二にも、誰も未だ手がけていないミネラルウォーターの製造直販という競争とは無縁の舞台で、営業を繰り広げることにありました。しかし、その反面誰にも認知されていない商品を売ることにはたいへんなエネルギーが必要とされました。馴染みのない商品に手を出す人は、なかなかいないものなのです。そのため、ガロンボトルで製造直販を試みた他の会社も、競合相手を目の当たりにする前に、投資と営業力のバランスを欠き敗退する憂き目にあいました。
失敗の要因は主に2点あったように思われます。第1点は、冷温水器をメインに据えたことでした。当時の冷温水器は、アメリカ製のものしかなかったために、多くが10万円を超えるものでした。見慣れない大型容器のミネラルウォーターを売りつけられる側は、そのミネラルウォーターを飲むためには、もっと馴染みのない冷温水器を大枚を叩いて買わねばなりませんでした。第2点は、その高い冷温水器故に大半の事業者が、ターゲットを法人に絞る羽目になったことでした。ミネラルウォーターが家庭の飲料用へシフトし始めたことは先にもふれましたが、その中でヘビーユーザーがいち早く大型容器に着目をしました。ペットボトルを買って帰ることの手間や容器ゴミの処理の手間を考えると、量を使うお客様ほどガロンボトルのシステムの持つ利便性を評価して下さったのです。また、海外旅行経験者の個人が、ユーザーとなるケースも目立つようになりました。旅行先のホテル等では当たり前のように見かけるサーバーとガロンボトルを探し求める人達が登場してきたのです。反面、バブルの崩壊で経費の削減を至上とされた法人にターゲットを合わせても、需要を喚起させる必然性は乏しい状況でした。そのため、法人をターゲットとしたガロンボトルビジネスは、軒並み苦戦を強いられる結果となりました。
私たちは、お客様の当たりを確かめつつ体制を整えていく方策しか採りようがなかったことが幸いして、当初より一般家庭をターゲットにしていました。そのため、サーバーも高価な冷温水器ではなく、陶器製の給水器を主体とした営業を展開しました。そのことが、商品の認知とそれに要する時間と自社の体力のバランスをうまく取る結果となりました。そして、誰にも認知されていない商品を扱う私たちに、思いがけない幸運が訪れました。それは、テレビでの紹介という幸運で、ゴールデンタイムに放映されたその番組の反響は予想を上回るものでした。そして、その反響のために、東京に限られていたお客様が一挙に全国に拡がることにもなりました。それまでは、都内と近郊を自社便で宅配していたものを、その他の地区に関しては配送と回収を運送会社に委託するという画期的なシステムを誕生させる契機となったのです。今まで販売ルートを持つ大企業に比して、それを持たない中小企業は市場の寡占化を指をくわえて見ているしか術を持ちませんでした。それが、運送会社との契約を通じて遠方のお客様と直結する術を得たのです。
製造直販という舞台においては、大企業と中小企業の違いは微々たるものでしかありません。時間はかかるにせよ、個々に得たお客様はそのかけた時間分だけ離れ難いリピーターとなっていただけるという事実の前では、企業の大小はハンデとはなりません。実際、ガロンボトルビジネスの発祥の地アメリカでは、各都市に全米ネットの大企業やその都市独自の中企業に混じってファミリー規模の企業も少なくありません。勿論多くの企業が共存できるのは、ミネラルウォーターが持つ潜在的な市場の大きさに負うところが大ですが、自らの規模にあった営業を展開する限りにおいて、企業の大小に関わらず、すべての事業者が同じ土俵で戦うことができるという要素を見逃すわけにはいきません。
そのような土俵の上に、日本的な宅配システムが新たな武器として加わりました。もともとガロンボトルビジネスには以下の3点で特筆できる利点があり、製造直販に向いています。
1.ボトルを牛乳瓶のように繰り返し使用するため、容器包装代が安い
2.容器包装にかかる経費が少なくてすむ分を価格に反映できる、又、その分を輸送経費に割り振ることができる
3.容器が大きい分それほどの生産量がなくとも採算が取れる
ペットボトルでの展開と比べると分かりやすいのですが、大量生産を前提とするペットボトルの場合、大量生産のできる大企業とそうではない企業とでは、容器包装にかかる単価が大きく違います。そして、ここで抱えたハンデは価格にも当然反映してしまいますし、輸送経費を加えると、価格の差はもっと拡がってしまいます。そのため、製造直販をしようとしても、スーパーで売られているブランドのミネラルウォーターに、価格面で全く太刀打ちできないものとなってしまうのです。
それがガロンボトルでの場合は、自社便で運ぶか宅配業社に委託するかは別としても、直接お届けして空を回収するという手間をかけても、価格面でペットボトルと太刀打ちができます。そして、宅配業社に委託するシステムの登場で市場の範囲を一挙に日本全国に広げることができたのです。
ミネラルウォーターの品質管理
1.菌
ミネラルウォーターの食品営業許可を取ることは、結局のところお役所の取り決めに従うことなので、決して難しいことはありません。但し、許可を得て実際の製造を日々行っていくこととなると、誰も取り決めを指示してくれるわけではないので、自分たちで経験を積み重ね、よりよい製品を作り出していく不断の努力が必要となります。
天然水を源水としてミネラルウォーターを製造する場合、なるべく天然のままで成分変化を生じさせたくないという思いから、私たちは精密濾過を処理方法として選びました。添加物を加える訳でもなく、菌以外の何かを取り除く訳でもありませんから、ここで言う製造とは煎じ詰めると、菌のコントロールに他なりません。そこで、当然のことですが、<菌とはなんぞや>という命題に対し、自らの答えや立場を明確にする必要が生じます。
最初に核心となる点を明らかにしますが、<ミネラルウォーターは無菌>ではありません。少し驚いた方もいるかと思いますが、食品で無菌のものはないし、ミネラルウォーターもその例外ではありません。塩素のような薬品が入ったものは別ですが、殺菌剤が含まれていない限り、無菌の食品などは存在しないのです。WHO(世界保健機構)の分類では{原虫・真菌(カビ・酵母)・細菌・リッケチア・マイコプラズマ・ウイルス}などの総称が微生物とされますが、単体では肉眼による確認が出来ない微小な生き物の総称が微生物で、菌はその仲間に入ります。ですから、菌は一番小さな生き物の一種ということになりますが、菌イコール悪者ではないという認識がまず必要です。
きのこを例に取ると分かりやすいのですが、ごく僅かな毒キノコを除くと多くのきのこが食用や薬用として人間に有用とされています。また、カビや酵母も味噌やチーズを例に取るまでもなく、私たちの食べ物と大きな関わりを持っています。そして、菌そのものも乳酸菌やヨーグルト菌・納豆菌等は私たちの食生活に欠かせません。フランスのミネラルウォーターは、そのような観点から原水に元々存在する菌を大切なものと考えていることは前述の通りです。
微生物と人間は、同じ生物という範疇の中で共生し、食物連鎖という環の中で深い関わりを有してます。微生物に関する人間の持つ知識はまだまだ浅く、抗生物質を使えば病原菌を根絶やしに出来るということが信じられていたのは、つい先日までのことでした。それが、人間の勝手な決め付けに過ぎず、生物が持つ生きる力はもっと遙かに強かったことを、私たちは知らされることとなりました。それでも、私たちが菌について知っていることは、相変わらず微々たるものに過ぎません。
その菌があらゆる空間に無数生息しています。勿論ミネラルウォーターの中にも。
何故このようなことを強調して書くのかというと、この点が自分たちにとっても一番掴みづらく、かと言って誰彼となく訊ねることができる事柄ではないため、確信を持って理解するまでには相当の時間を要してしまったからです。
ミネラルウォーターは、食品衛生法施行規則により「容器包装詰め直後の製品は1ml当たりの細菌数が20以下でなければならないこととされ、その測定法が定められたこと。」とされています。この測定法は35±1℃で24±2時間培養して判定します。菌は生き物ですから増殖をします。その意味で製造直後に20もの数が生息しているとなると多すぎることは、実際に製造に関わることになれば、理解することとなるでしょう。
さて、35℃で24時間培養して判定できる菌というのは限られています。ですから、この条件で菌が検出されないからといって、そのミネラルウォーターが無菌だという訳ではありません。原水には低温(25℃程度)を好み、37℃では増殖しにくい菌が多いのです。それは、自然環境下での水温が37℃となることは温泉水でもなければあり得ないという単純な道理に拠ります。ごく自然の環境下では水温は低温ですから、そこに住む在来菌は低温時に増殖し易いということになります。では、何故35±1℃という温度が培養条件として設定されているかというと、その温度が人間の体温に近いからという理由です。つまり、仮に人間が接種してしまったとしても、その菌が人間の体内で異常増殖する条件が整っていなければ問題がないが、体温程度の温度を好む菌であれば増殖してしまう可能性があるので、そこに基準値を置いてモニターしようということなのです。
私たちの科学では、想定されている物の存否を確認することはできるのですが、想定外のものを検出することは至難の業となります。ミネラルウォーターの除殺菌方法は殺菌効果試験をクリアーしなければなりませんから、加熱にせよ、フィルターによる除殺菌にせよ、紫外線にせよ、またオゾンにせよ、ほとんどの菌を除くことはできます。但し、それでもなお菌は存在します。ミネラルウォーター製造業者に求められているのは、それを35±1℃で24±2時間培養する測定法でモニターすることによって、想定される菌の存否を確認することなのです。想定された菌がゼロであれば、それを商業的無菌状態と呼びますが、それが全くの無菌状態を指すわけではないことを繰り返し記しておきます。
さて、上記の事柄を確信を持って理解するまでの体験談をエピソードとして2つ紹介します。
<エピソード1>
ミネラルウォーターの事業を始めて間もない頃、まだ菌のことを捉え切れていない私たちは、アメリカのI.B.W.Aのコンベンション(展示会)に2年連続して出かけました。初回は、まだ右も左も分からない時で製造機械やボトルや冷温水器を見に行きました。その時の印象はとても強烈で、分からないことがあれば、先達が辿ってきたことを参考にするに限るということを私たちは学びました。そこで、翌年の展示会開催中に菌に関するセミナーが行われることを知った私たちは、早速出かけることにしたのです。セミナーは英語で行われたので、正直に言って何を言っているのか全く理解する事はできませんでした。但し、私たちはセミナーで教本として使われた「微生物学:世界のそれぞれの取り組み」を手にすることとなりました。分厚い教本には様々な情報が学術的な観点から書かれていて、私たちの知りたかった答えは全てその一冊に網羅されていました。
辞書を片手に翻訳をする日々が続きましたが、その内容のごく一部を紹介しましょう。
「源泉におけるミネラルウォーターの微生物学的分析では、わずかな(<1/ml)なバクテリア細胞が見られる。ボトリング後、そのバクテリアの含有量は、通常2~3日以内で10の3乗~10の5乗/mlまで上昇する。ButtiauxとBoudierは1960年にこの現象を書き示した人である。それ以来多くの研究者がこのバクテリア含有量の変化について研究発表をしている。」
「ナチュラルミネラルウォーター内で発見される微生物は理論上人間の消化器系や温体動物の消化器系では成長する事ができない。これらの組織体で胃壁を通過して腸の細胞質の保護機能を打ち負かすものがあったとしても、37℃(人体の体温)という好適温度と特別な栄養接種環境を持った在来菌と競争する力はない。」
「ナチュラルミネラルウォーターは、土地固有で特定の微生物を含んでいる。が、疫学上特筆すべき事は、これらの製品が市場に紹介されて以来一度も報告されていない」
- ヨーロッパのナチュラルミネラルウォーターの微生物学より
「すべて水は微生物を含むものである。その微生物の数やタイプは水源の質に依拠している。市の水処理工程を経た水も微生物を含んでいる。この場合、微生物の数とタイプは必ずしも水源のもともとの質にはよらないが、水処理の程度や方法に影響を受ける。もし、処理水中に塩素のような殺菌剤の残留がなければ、処理後水に残ったわずかな微生物は増殖するが、それは通常貯蔵した水の中で起こる。この自然の現象は、ベストで衛生的なコンディションで製造された水の中でも起こる。」
「人間に限らず、全ての生命は細菌と関連を持っている。自然の細菌群抜きには生活のシステムそのものが成り立たない。そのため、自然の水は細菌をいつでも含んでいる。同様に野菜、牛乳、その他の食物も又細菌を含んでいる・・・ 全ての自然の体系は細菌を含んでいるが、これらの細菌は水の環境には適応するが、人体の中では見いだされない。今日まで人間の疾患と水の中に見られる自然細菌の間には何らの関連も報告されていない。」
「胃は接種した食物や水のための大きな殺菌器である。毎日人間は食物の中にある細菌を食べ尽くす。胃の中の酸はすばやく彼らを殺す。水環境から分離されたいかなる菌もPH3.5に晒されると生き残れない。」
「ウォータークーラーの適正な保守がされていれば、特別な問題は報告されていない。」
- ビン詰め水、ウォータークーラー、水道水から分離された微生物の分析より
<エピソード2>
「微生物学:世界のそれぞれの取り組み」の中に全ての答えがありました。でも、まだそれを確信を持って理解するには到っていませんでした。業界によって書かれた資料には、手前味噌の部分があるのかも知れないという偏見にも似た感覚を持つ程に、まだ事の本質を掴みかねていたのです。アメリカのI.B.W.Aに当たる組織は日本にはありませんが、ミネラルウォーター業界の組織として日本には日本ミネラルウォーター協会があります。サントリー・ハウス食品といったミネラルウォーターのシェアの大部分を持つ2社を含む60数社の製造会社を正会員とし、外国産ミネラルウォーターの輸入元や商社を準会員、容器包装や機械関連の会社を賛助会員とする総勢100数社から成る業界団体です。
弊社もその一員ですが、協会が主催する研修会及び工場見学会が20年ぶりに復活することになり、その研修で「水の工場の微生物管理について」の講演が行われると言う情報を得た私たちは会場に出向くことにしました。ニッカウヰスキーの工場で行われた研修会の報告書の一部を紹介します。
-報告書-
「このような研修会は20年程前には定期的に行っていたが、それ以降開催されていない。今回を機にこういった会合を年2回、春秋に開催していきたいと考えている」(協会専務理事 福士祐次氏)という挨拶で始まり、ついで福田正彦氏の講演に移る。福田氏の講演の中で印象に残ったいくつかのコメントを記しておく。福田正彦氏の肩書きは、全国清涼飲料工業会の技術委員会委員だが、もともとは日本ではミネラルウォーターの草分けの堀内合名会社の企画室長。現在は、ミネラルウォーターの国際規格を作る会合などに日本の代表として出向くなど、いわば、業界と厚生省をつなぐご意見番として、様々な提言をしている人物。
①ミネラルウォーターの第一要素は日本では”おいしさ”、ヨーロッパでは”薬-治療的な効果のあるもの”、アメリカでは”安全性”(8割が処理をした大型容器詰め -水道水の代わりとして考えている) この違いはもともと水質に由来するものだろうが、それが各々の食文化の背景となった。
②ヨーロッパのミネラルウォーターが無殺菌であるという背景は、ミネラルウォーターに薬用効果を求めているという背景があるのは勿論だが、その主成分が重炭酸カルシウムであることが見逃せない。この成分は熱をかけると変化してしまうため、日本の水のように加熱に耐えうる性質をもともと有していない。
③アメリカではオゾン殺菌が主流で、その影響を受けたオセアニア・インドネシア・タイなどもオゾン殺菌を組み入れている。韓国・中国では紫外線殺菌で、特に韓国では紫外線殺菌を必ず組み入れなければならないことになっている。
④ヨーロッパでは源泉固有の菌を排除しようという考えがない。そのため、ビン詰め後に細菌数は10の4乗個ほどに増えるが、それで良しとしている。日本でも同様の考えを取り入れ始めたが、もし国産のものを調べて同等の一般細菌が検出された場合、保健所はどういうリアクションをするのか興味深い。厚生省も含め、この問題を行政側がどれほど認識しているかに関しては、はなはだ疑問に思わされる点がある。
福田氏の講演が終わり、昼食となったが、氏の許しを得て以下の2点に関して質問をした。
1.ヨーロッパでは、源泉固有のものは菌を含めて排除しないという事だが、ビン詰め後に繰り返される細菌の増殖・死滅の過程で固有の菌が変異していくことはないのか?
2.当社の製品チェックは ①製造直後の製品に関して 37℃ 24時間 ②室温で2週間保管後の製品に関して 30℃ 4日間培養する検査を行い、その両者とも /ml中でゼロという数値を得ているが、別な条件を設定すれば別な菌を検出することがあるのか?
答え
1.に関しては、そこまで踏み込んだ調査結果が公表された事例はない。菌に関しては、ほとんど分かっていないというのが実状であるし、菌の同定試験についてもその精度に100%の信頼をおけないという事情もある。但し、経時的な変化の中で固有の菌が変化していくことは大いにあり得るのではないか。
2.に関しては、例えば同じ30℃でも1週間培養すると出てくるという事は考えられる。各メーカーさんとも、それぞれの条件を設定して調べていると思うが、各社ともそれを公表しないだろうから、表には出てこない。そのためデータとしてはないが、単位は別として何本かに1本には菌の混入はあることと思う。ただし、ミネラルウォーターは無菌が求められているわけではないので、必要なことはその数を減らしていく努力だと思う。
休憩が終わり工場見学→生産技術研究所見学があった。この研究所は、要するに製品の分析センターで、見学の後に分析センター所長の橋本昭洋さんの講演があった。内容に関しては、特に3点について興味深いものがあったので報告しておく。
1.ニッカウヰスキーでは、現在ガラスビンのミネラルウォーターしか製造していないが、ペットボトルでの製造を想定し、各種市販ミネラルウォーターの調査を行った。その結果多くの製品で臭いに問題があることが判明した。結果的に言うと、それはキャップ材質からの移り香で樹脂タイプのキャップでは水に移り香があることがその後の調査結果で分かった。
2.また、同時に行った市販ミネラルウォーターの独自の細菌テストの結果も公表された。銘柄を伏せたもので輸入のものも含めて約40品目程度の検査だったが、かなりのものに一般細菌の検出があった。
3.ニッカウヰスキーでの品質保証チェックリストの一覧も各種紹介されたが、それでも不備な製品が出てきてしまうことは避けがたいとの話。お客様からの苦情で初めて気づかされることも多々あるという話もあった。
その後充填室のサニテーションに関する講演があり、最後に今日行われたセミナー全般に関しての質疑応答があった。いくつかの質疑の中で興味のあったのは以下の3点で、
①キャップの殺菌はどのような方法が一般的か? 答え-UV・ドライスチーム・オゾンの順
②85℃30分の殺菌が想定している菌は? 答え-腸球菌
③37℃24時間以外で検出される菌について行政が問題にすることはないのか? 答え-厚生省が問題とするのは37℃24時間で検出されるものでそれ以外は対象とされていない。だが、各メーカーはそれぞれの条件設定を独自に行い、自主的な検査をしていることと思う。
これらの質疑は各メーカーが微生物のコントロールに関してかなり似通った問題を抱えていることを示唆させるものとして興味を感じた。いずれこの問題が研修会を経ることによってもっとオープンに討議され、協会としての知識の集積につながっていけばいいのだけれど・・・と感じさせられた。
<菌とはなにか?>
私たちの<菌とはなにか?>を探索する道のりは多くの紆余曲折を辿りました。結局答えは「微生物学:世界のそれぞれの取り組み」にあったのですが、そのことを言葉としては分かっていながらも、私たちは抗生物質で菌を根絶やしに出来ると考えたのと全く同じ過ちを繰り返していたのです。その環から抜け出せたのは、日本ミネラルウォーター協会のセミナーで大きな企業もまた同じ問題を抱えていることを知ったからでした。アメリカやヨーロッパではなく、日本のミネラルウォーターの会社が悶々としている姿を見て、事の本質がようやく理解できたのです。
私たちが口にする食品の中には、必ず菌が居ます。何故なら食品は人間にとっての栄養源であると同時に菌にとっても栄養源だからです。ですから、殺菌剤を含まない食品には必ず菌が居ます。私たちは、食品を、それを食べている菌もろとも食べてしまいます。しかし、私たちはそれを経験的な方策を駆使して、ものの見事に管理しています。食品が腐ってきたら、たとえそれが冷蔵庫に入っていようが見分けはつき、口に入れることはしません。仮に口に入れても腐っていれば吐き出すことになるでしょう。また、間違えて体内に入れてしまっても、胃酸がそれらを駆逐する仕組みを持っています。このように、私たちはごく普通の食品が大量に含む菌に関して、無頓着にやり過ごす術を持っています。というよりも、人間という生命が蓄積してきた知恵が、ごく当たり前に菌への対応をこなしているのです。
一方、ミネラルウォーターは同じ食品ではありますが、栄養素という観点からいうとほとんどありません。そのため、菌も増殖することはありますが、栄養分がないためその増殖にも限りがあり、外的な要因が加わらない限りなかなか異常増殖=腐敗にはいたりません。栄養素を大量に含む食品に関しては無頓着な私たちですが、事ミネラルウォーターに関してはとても神経を尖らせてしまうのは何故でしょうか?それはおそらく水道水の危険性と無縁ではないのでしょう。水道水で金魚を飼うと死んでしまうことは知られていますが、それは水道水が塩素という殺菌剤を含んでいるからです。人間は金魚より体が大きいので、同じだけの塩素で死んでしまうことはありませんが、考えてみれば食品に殺菌剤を混ぜて接種せざるを得ないというのは異様なことに違いありません。しかし、その異様さを容認させてしまう程汚れた川を源水とする水道水を見る時、私たちがミネラルウォーターに過度な思い入れをしてしまっても仕方のないことなのかもしれません。そのミネラルウォーターは安全であってほしいという思いが、いつしかミネラルウォーターは無菌であってほしいという感情にすり替わってしまったように思えます。
過度な清潔意識から見えない菌への恐怖心を醸成するのではなく、私たちは正しい知識と蓄積してきた知恵に立ち返る必要があります。何故、フランスのミネラルウォーターは無殺菌なのか?源水に含まれる固有の菌は、そこに進入しようとする別種の菌を排除する働きをする事が知られています。決して駆逐しきれない菌を根絶やしにするという発想から抜け出し、善玉菌と上手に付き合うというフランス的な発想に学ぶ点は少なくありません。ジュースも牛乳も無菌ではありません。それらはミネラルウォーターより遙かに多くの菌を含んでいますが、私たちはそれを意識することはありません。ミネラルウォーターも無菌ではありません。この事実を隠すのではなく、正しく認識し、必要に応じてお客様に説明していくことが、ミネラルウォターに携わる者の責務だと感じてなりません。
2.製品チェック
製品のチェックは綿密に行うことが求められます。ただ、この点に関しても、何をどのようにして行うかは誰も教えてくれません。一番適切な方法は日本ミネラルウォーター協会に入会することでしょう。
サントリーやハウス食品を含む協会の最大の眼目は、「安全と安心」を消費者に提供することにあります。そのため、積極的に協会が主催する研修会及び工場見学会を催し、会員への啓蒙及び情報提供をしています。入会に当たっては正・準・賛助の2会員の推薦が必要となる上、入年会費がかかりますが、品質管理に自信を持ってあたれるようになるためには入会をお奨めします。入会金は6万円で年会費は製造規模によって異なりますが、最低が3万円となっています。
前節でも触れましたが、ニッカウヰスキーの工場で行われた研修会の報告書の内工場見学についての部分を紹介します。
-報告書-
「この見学はウィスキーの工程見学で、期待していたミネラルウォーターのものではなかった。ただ、ウィスキーの製造工程がほとんど自動化されているにも関わらず、大勢の人間がいて製品チェックに携わっているのを見て驚いた。まず、瓶詰めされた直後のラインにはコンベアをはさんで2人の人が座って製品チェックをしている。その後3人がプレフォームのキャップシールをかぶせ、自動シュリンクの機械を通過させた後には、キャップシールのみの検査をする人がいる。その後自動ラベラー機があり、そのラベルのチェック係がいる。そして、その後は2人の人が製品を段ボールに詰め、自動的なパッキング工程に入っていく。2人の人がそれほど急がず箱詰め出来る小規模なラインにも関わらず、上記の人数がいてチェックをしているという点は、今後工場の製造工程を考えていく時に考慮しなければならないことだと思わされた。
工場見学の後に生産技術研究所の見学があった。この研究所は要するに分析センターで建物丸々一つが製品の分析をするラボになっている。各部屋には農薬や臭い検出などを含めた分析ができる各種装置が揃っていて、外部からの分析依頼にも応じているという。」
大きな企業になればなるほど、製品チェックは綿密に行います。製造の環境に関わりなく、又頻度を別としても不良品は必ず出てきますが、製造者はそれを前提にきちんとした対応を用意しなければなりません。大きな企業ほど社会的な責任も大きいわけですが、不良品を世に出すことによる信頼の失墜は大きな痛手となりますから、相応の労力や経費を製品チェックに当てることになります。
ミネラルウォーターは無色透明ですから、仮に混入物があれば、それは誰の目にも明らかになってしまいます。ガロンボトルに限らずミネラルウォーターのボトルは全て拡大鏡の役割を果たしますから、通常では識別の難しいほど微細なものも見ることができます。まして、大型容器は内容量も多く充填にも時間もかかりますから、小さな容器よりも注意が必要です。例えば、2リットルのペットボトルにかけるチェックの時間があると想定した場合、3ガロンボトル=11.35リットルのボトルのチェック時間は最低でもその6倍程度をかけるのが妥当ということになります。キャップの内側にフォームを入れたものを使用する場合は、閉栓時にフォームから切りゴミが出てしまうケースもありますから、一層の注意が必要です。
不良品の頻度は製造環境によってかなりの違いが出ることでしょう。ですから、製品チェックに関しては、全品検査をきちんと工程に組み込み自分たちの製造のレベルを正しく認識することがスタートになります。それをルーチンワーク化すれば、何をどのようにして行うかは自明のこととなり、独自の品質管理方法が構築されていきます。それが確立されるまでは、決して労力を惜しまないことが重要です。
完 (2003年11月16日)
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