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2週間ぶりの父との再会

「あと何回父と会うことができるだろうか?」
入院している父の面会に行く度に、そんなことが頭の中を駆け巡る。

2週間ぶりに会う父の顔は、前会った時よりさらに瘦せこけて腕の皮膚はしわがよっていた。こけた顔のせいで、目が飛び出しているかの様に見えた。

目の前にいる父は、入院する前にあった時とはまるで別人になってしまった。入院して一ヵ月、元気だった時の面影はない。人はベッドの上で生活をしていると一ヵ月でこんなにも体力・気力が落ちてしまうものなのか。

今まで見たこともない父の表情と力のない声。少し話すと呼吸が苦しくなるからあまり長くは話せない。面会時間は10分だけど「今度いつ会えるか分からない」と思うと父をあとにして帰りたくない気持ちになり、結局20分位父と話していた。

父が私に「来年、リタは小学生になるのか?」と聞いた。1年後、父が生きている保障はない。長女がランドセルを背負った姿を目にする日は来るのだろうか……国際結婚して、孫ができてもなかなか孫の存在を認めてもらえず、里帰り出産した時も1カ月間孫を抱かなかった父。でも、父にとっては初孫だから可愛がってくれてたのだと思う。

いつも父が家に来る時は、予告なく来て玄関のベルは鳴らさずに「おぅ!」と玄関の戸を開けて入ってくる。そんな突然来る父を「えぇ~今来るの!?」と思ったこともあるけど、玄関の戸を勝手に開けて「おぅ!」とい父の声をもう聞くことはないと思うと寂しい気持ちになる。

父が入院してから、父と同じ位の年齢の男の人を見ると、なんとも切ない気持ちになってしまう。日本人の男性平均寿命が81.64歳。父は今73歳で、祖父は82歳で亡くなった。平均寿命と祖父の年齢から考えれば、あと10年は生きられるはずなのに……

日本ではよく、ロウソクの火を命に例える。弱っていく父をみていると、「ロウソクの火(命)はこんな風に緩やかに消えていくのか」と、ロウソクの火の弱々しい感じが命が消えてしまう瞬間とリンクする。

病室を出る前に「母に渡してくれ」と、父がメモした紙には「万が一の時、名前、職場」が記されていた。自分がもしもの場合、新聞に掲載された時のことを考えているのだ。私はこの時、父が自分の余命を悟っているのだとわかった。

父にはまだまだやり残していたことがあるはずで、やりたかったこともまだまだあったはずだ。そんな父のことを思うと、本当に悔しい気持ちになる。

私は今、命をつないでくれた父に改めて感謝している。でも「今までありがとう」という言葉は、最後の最後まで口にはしたくない。

「早くお家に帰れるようにがんばろうよ」と声をかけて、私は病室をあとにした。


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