ライターがインタビューでもつべき「3割の余白」とは?
言葉の世界に思わず引き込まれるような魅力的なインタビュー記事。その作成の裏には、インタビューを担当するライターのさまざまな工夫があるって知ってましたか?
ライターの仕事において、インタビューは避けては通れない作業の一つ。そのインタビューのテクニックや面白さを探るべく、マデニヤル代表の髙橋にインターンの清水がインタビューしました!
なってみて初めて知った「ライターは人と会う仕事」
――髙橋さんはインタビューのスキルはどうやって磨いたんですか?
特に誰かに教えてもらったわけでもなく、とにかく回数を重ねて自分なりのやり方を身につけてきました。
ライターになる前、ライターとは小説家のように部屋にこもって締め切りと闘いながら黙々と作業するものだと思っていました。僕はもともと筋金入りの人見知りなので、人と会わずに文章さえ書けば仕事になるならこんなに楽なことはないと思ったんですが、始めてみたら、インタビューはもちろん、打ち合わせなどでも人と会う機会が非常に多い仕事だった。だから最初の頃は極度に緊張しました。どんなことを聞いたら良いインタビューができるのかを考える余裕はなかったですし、いかに取材の時間を無難に乗り切るか、それしか考えられませんでした。
でも、僕は音楽やエンターテインメントのライターとしてスタートして、幸運にも知名度のあるアーティストさんやタレントさんに会って話を聞く機会が多かったので、緊張と同時に「今日はあの人に会える」とわくわくする気持ちをもつこともできました。そうして回数を重ねるうち、徐々に緊張も楽しめるようになっていきました。
準備はし過ぎない。あえて知らないことを残しておく
――インタビューの前にはどのような準備をしていますか?
インタビューにおいて事前の準備は欠かせません。しかし、完璧には準備せず、あえて知らない部分も残しておくようにしています。すべてを知ってしまうと、取材が予定調和になりやすいからです。「あれってどういうことですか?」ではなく「あれってこういうことですよね?」という聞き方になってしまう。それだと取材を受ける側も「はいそうです」と答えるしかない。これでは会話がまったく展開しません。事前に得た知識で頭を埋めてしまうと、新しいエピソードを聞き出す隙がなくなってしまうんです。
これは、準備を疎かにすることとは違います。100%の準備のうち、事前に準備する情報は失礼のない範囲で7割程度に留め、残りの3割は余白を作るということ。この余白を使って話を進めていけば、自然な会話の中から印象的な言葉を引き出すことができると思います。基本的な情報を押さえておく必要は当然ありますが、知らないことを引け目に感じる必要はありません。知らないから聞きに行っているわけですから。
――インタビューで話を膨らませるためのコツはありますか?
前提となるのは、「はい」や「いいえ」で終わってしまうような問いかけをできるだけしないこと、そして、相手の回答を「そうなんですね」と受け取って終わりにしないことです。例えば相手の答えが3つのセンテンスに分かれるとすれば、そのセンテンス一つひとつの中に掘り下げるべき内容や疑問に思ったポイントを見つけ、その場で解決していく作業です。
これは、みなさんも日常会話の中で普通にやっている会話のキャッチボールと同じことです。でも、インタビューとなると、これがなかなかできなくなる。「きちんと取材をしなければ」と思えば思うほど、答えを受け取るだけのインタビューになってしまいがちです。遠慮することなく、普段の会話のように疑問を投げかけていくことが必要だと思います。
「取れ高」を上げるのもライターの役割
――取材をする上で雰囲気作りは大切だと思います。髙橋さんはどのような工夫をしていますか?
リアクションをなるべく大きく取るようにしています。
インタビューは、取材をする側だけでなく取材を受ける側も「自分の回答で満足してもらえるだろうか」と少なからず緊張や不安を抱えています。そんな時、大きなリアクションを取って「あなたの話に興味がありますよ」と意思表示をしてあげると、相手は自分の回答に自信と安心を感じます。すると「しゃべりのスイッチ」が入り、徐々に前のめりで話をしてくれるようになります。僕がインタビューで醍醐味を感じるポイントの一つです。
――そのほか、インタビューにおいて大切にしていることはありますか?
「あなたにとって○○とは?」という質問は絶対にしないようにしています。例えば、ミュージシャンに対して「あなたにとって音楽とは?」と聞くような質問です。取材をする側にとっては問いかけやすい質問ですが、その答えを日頃から明確に持っている人はほとんどいないと思いますし、それはむしろインタビューをする中でこちら側が解き明かしてあげるべきものだと思っています。
最近、取材の現場で「取れ高」という言葉をよく耳にします。良い記事になるだけの言葉を取材対象者がしゃべってくれたか、ということを言っているのですが、あまり良い言葉だとは思いません。取材対象者を前にそれを言うなどもってのほかです。「取れ高」が高められるかどうかはライターに委ねられている、どれだけ良いインタビューができるかにかかっているのだということを、取材する側はもっと意識すべきだと思います。
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インタビューを終えて…
今日こうしてインターン生として記事を書かせていただいている私も、正直、ライターは人と会わず机と向き合いひたすら文字を書く仕事だと思っていました。しかし実際、ライターは人と会う仕事であり、数多くの取材を行います。
今回のインタビューを通して、人の心を動かす文章を書く上で、インタビューがどれだけ大切かを改めて実感することができました。中でも、髙橋さんの「取れ高を上げるのはライターの仕事である」という言葉は心に響くものがありました。効率化が求められる世の中において、取材の際、効率を求めてしまう気持ちもわかります。ですが、インタビューにおいて大切なのは今、この時、目の前にいるインタビュイーとのコミュニケーションだと思います。その本質が込められている言葉をいつまでも忘れることなく、インタビューアーとして常に成長し続け、いつか素敵なライターの一人になります。この記事を、素敵なライター人生を送るためのパズルの一つにしたいと思います。(清水玲奈)
▼清水さんが執筆したインタビュー記事はこちら!