企画とチームプレーでUIデザインする方法 4/4 最終回

これまで、従来型開発での企画メンバーの役割から課題を定め、その解決例を紹介してきました。実際のデザイン作業は連続しているので、うまくこなすためにいろいろな工夫をしました。

大きな計画より戦略

毎週それまでの反省をして、いろいろな戦略を試しました。いくつか紹介します。

例1: 重要でもリスクの低いものを後回し
デザイン作業の順番は、重要度だけで決まりません。
たとえば、明日やっても今日やっても同じ中規模コストのUIより、すぐに沢山できるものをこなして気にすべき対象を減らしたりします。

例2: リスクが高いものを先に

終盤の時間が無いときにハマると、取り返しがつかなくなりそうなUIもあります。これは先に済ませて、全体進捗の見積もり可能性を高めたりしました。早めにやって案の定ハマっても、まだリカバーできます。

例3: ボトルネックも優先順として戦略に反映する
利害関係者との調整などの影響で、明らかに来週しかできないUIは、その週に気にかける必要がありません。重要だとしても放っておきます。

例4: 「あと3日しかないならどの順でやる?」
背に腹が代えられない場合に何を捨てて何をどこまでやるか、わざとエクストリームな状況を想像でイメトレします。これは、UIごとの品質を調整したり、他で代用できる余計なUIを産まないことに繋がります。

例5: ビジュアル全体の最適化方法
「何のため?」に基づいて一つづつ作っていると、いざ画面に埋め込んでみたらぎこちないUIも当然出てきます。今回我々はいわゆるコンポーネント志向のUIデザインで進めましたが、完全に局所最適をかなぐり捨てることはできませんでした。
この場合は、好きなタイミングで全体を整えるこんな作業を差し込みます。

○ やること
一覧画面のツールバーの見た目が整っている
○ 何のため?
・きれいな美観で気分良く操作するため

「何のため?」を見てこんなの当たり前だろ!!と思う人がいるかも知れません。重要なのは「きれいな美観で気分良く操作する」価値とUI個別の価値が分離されていることです。
合意済のデザインルールが反映され、話し合いで要求を決め、レビューしてUI単体としては完成しています。そのうえで、個別画面や組み合わせの局所的な調整作業をしているのです。
一度に画面を作るような進め方だと、これらが本当に簡単に混同されます。利害関係者とのレビューで論点が噛み合わなくなる原因の最たるものでは無いでしょうか?

例6: 週の後半は小規模なUIをあつめる
終盤に終わるか終わらないかわからない大きいUIを並べると、実績が不透明になってしまいますし、精神衛生上もよくないです。短時間で確実にできそうなものを小刻みにならべて、仕掛品が生まれないようにします。

UIデザインに対するマインドの変化

最初の地点でどうだったかは覚えていませんが、このような取り組みを1ヶ月以上続けていると、デザインの進め方や判断基準が双方で変化していきました。

デザイナー:
「どうやったら企画の思うブランドイメージに近づくだろうか?」
着手前は、揉めるくらいなら指摘箇所だけ直して簡単に終わらせようと考えていたため、チーミングの工夫でデザインの方針まで変わるとは自分自身思っていませんでした。

企画:
「どのデザインが(エゴではなく)ユーザーにとって価値ある改修か?」

"納期が迫って要求をそぎ落とさないといけない時、ユーザへの「価値」をどれだけ多く提供できるか強く意識するようになった”

上記のように言っていました。開発の後半は、企画がかなり積極的な要求の取捨を行っていたので、こういった意識で進めてくれていたことに腹落ちします。

全体の結論

4回にわたって取り組みを紹介してきました。ここで俯瞰したいと思います。

最初は手を動かす
ろくに共通認識がない状態で生産性を気にしても不毛です。無駄になるデザインがあっても、ルールやイメージの原石探しに没頭します。ここは、一般的な「発散」フェーズというより探索、調査です。

計画より戦略
一本道の工程を組み替えて、変化し続ける状況に追従する戦略をとりました。これは、柔軟性だけでなく「デザイナーがなにをやってるかわからない」を解消することで、企画の当事者意識が向上します。

仲間外れUIの抑制
優先順位に基づいて取捨選択し、本当に必要なものを先に作りつづけることで、使うかわからないUIを作らず済みました。

もし最初に全部UI設計してたら…?

👉 デザイナーが勢いと思い込みで作り、一旦は形になる
ただし、設計に時間をかけたあと実装段階でデザイナーが追い詰められます。終盤には変更を受け付けないように複数の利害関係者を相手にして揉めていたかもしれません。

👉 デザイナー以外が納得せず何度も作り直す
・ UIの抜け漏れは後で気づく
・ 一気に仕様を説明しても、周りが全部把握して納得することは限らない
上記のようなあるあるを考えると、UIが一通り出揃ってから、あちこちのUIを直したり追加する作業になっていたと思います。こうなると、デザイナーすら細切れの作業に没頭して当事者意識がなくなるはずです。

今回の役割分担
企画との間では、自分たちの役割についてだいたい下記のような認識になっていきました。

 企画が「あるべき姿」の方角へリードし、
デザイナーが「あるべき姿」の実現方法を考える。

この「あるべき姿」とは、「ブランドイメージ」と「何のため?」の集合です。チームで「あるべき姿」を具現化してきた実感があり、そのことが顧客と提供側のような安易なロールプレイにならず、UIデザインについての具体的で濃い議論を助けになったと感じています。

今回の方法は、相手の普段の思考方法やパッションに依存するところが多いと思うので、再現するには人を見つけるのが第一関門かもしれません。他の方が新しいプロダクトやプロジェクトを始める時、一緒にできそうな人がいたら是非試してみてください。