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6.大阪には少なくとも4つの方言がある、みたい。で、地方の誇りの話。

大阪は日本で2番目に面積が小さい。
それも、2番目になったのは最近、といっていい。
関空ができたからだ。
関空のぶんの面積が増えたから、それまで2番目に小さかった香川県を抜いてしまったらしい。

たぶん、北海道の人が聞いたら、
どんぐりどころかゴマの背比べじゃないの?
と思われるだろう。
もちろん、そのとおり。それでいいですとも。

でもこの小さな自治体にも少なくとも4つの方言があるようだ。

ひとつは、大阪市民が使う「なにわ弁」。
ひとつは、京阪間、つまり北摂圏の人たちが使う「摂津弁」。
ひとつは、大阪南部の丘陵地帯の「河内弁」。
ひとつは、大阪南部の海岸地域の「泉州弁」。

小さい大阪府なのに、
確実に4つはある、と言える。
基本的には通じるが、独特の語彙や発音があったりするのだ。
もっと言うと、方言とはちょっと違うが、大阪の本町付近の商家の言葉で「船場言葉」なんてのもある。

もちろん、大阪の隣の京都は京都弁だし(京都はもっと細かいかも)、
兵庫県は阪神間の「尼弁」、神戸の「神戸弁」、
明石?加古川?以西の「播州弁」、
奈良はまったく詳しくないが、想像するに、
「大阪県民」と言われるほど昼間は大阪に向かうひとが多いせいか、
なにわ弁に非常に近いが、「奈良弁」というか「大和弁」というのが
あってしかるべきだろう。

おそらく、滋賀以東の人にはこれらの「関西弁亜種」の違いは分かるまい。
そんなの、「関西弁はガラが悪い」でいいじゃん、と言われてこれまたしかるべきなのであるが、
東京だって実は江戸っ子言葉をつかえる東京人は限られているだろうし、
体系立った名前はまるで知らないが、例えば房総弁だって、常総弁だってあるんじゃないのかしらん、と思ったりする。

東京で8年住んでみてわかったこと。
おそらく東京の人は自覚していないが、
「言葉は伝達の道具」となっていると。
これはもちろん私見なのだが、
東京には日本の各地から人が流入している。
北は北海道から南は沖縄まで、全国の人が東京に流れ込んでいる。
もちろん東京出身の人が一番多いのだろうが、1代前は東京ではなく、やっぱり流入組だったりすることは当然ながら多い。
結局、日本各地の方言を標準化することで情報伝達しないと、どこから来た人かわからない人に対して情報が伝わらないので、
結局「伝達のためだけの言葉」を使っているのでは、と思ったのである。

大阪弁は「単なる伝達手段」ではない。
ボケとツッコミに見られるように、言葉を伝達以上の意味を持たせて操っている。
もちろん、大阪弁が優れている、と言いたいわけではない。
江戸っ子言葉の気風のいい会話には「行間」や「粋」があるし、
東北の言葉の衝撃的なほどに合理的に短縮された言葉のやり取りはテレパシーにすら聞こえる見事さである。

つまり、地元の言葉になると、一気に「伝達」以外の機能を持ち出すのである。

東京時代、タクシーに飛び乗ったとき、運転手さんとこんなやり取りになった。

「すいません、品川までお願いします」
「品川ですね。港南口ですか?高輪口ですか?」
「港南口ですね。あ、急がなくてもいいですよ。」
「はい。では。あ、お客さん、大阪の方ですか?ご出張か何か?」
「ええ、大阪です。出張じゃなくて、こっちで勤めてもう4年ですよー」
「とても優しい大阪弁ですね。僕、大阪弁のお客さんって、タクシーに乗るとすぐ『品川まで行ってんか』とか『おい、新橋まで行けや』って言われることが多くて・・・」
「優しい?普通やと思ってますけどね。そうやって言ってもらえると嬉しいっすね。でも、ガラの悪い大阪弁を使う人間がいるからこそ、僕は普通の大阪弁を使っとかなあかんな、と思ってはいますけどね」
「なるほど。大阪の方って、東京でも大阪弁を使われますよね。ガラの悪い大阪弁はあまり好きになれないけど、お客さんのような大阪弁は僕、好きですよ」
「あらー、ありがとうございます。いや、僕はこっちの言葉を使えないんで、大阪弁なだけですよ。こっちの言葉を使うと、たちまち気持ちが言葉に乗らない・・・」
「そうなんですね。私、実は青森出身なんで、地元の言葉を東京に来ても使い続ける大阪の方、うらやましいんですよね。ほんとのところ」
「そうなんですか!青森!僕ら関西人は青森出身の方とはまあめったに会うことないんで嬉しいですよ。この際、僕も大阪弁でしゃべってるし、運転手さんも青森弁でしゃべったらどうです?」
「いやいや、通じませんよ、津軽弁は。東京出てきて、最初は苦労しました。なまってる、って笑われて・・・」
「なぜか東京の人はなまってる、って笑うんですよね。なまってるから笑う、って失礼ですよね。まるで東京弁が上で、地方の方言が下、みたいな気になるでしょ。言葉に上下なんかないのにね。残念ですよね。ま、東京の人すべて、ってわけではないですけどね。でも、自分のお国の言葉のほうが、感情も乗っかるし、言葉に出さない行間にこめられた思い、みたいなの、表現できるやないですか。」
「そうなんですよね。私も津軽弁でお話してみようかなぁ」
「たぶん、青森出身の人が乗ったら、懐かしくてうれしくなって、リピート客になってくれるかもしれませんよ。何回笑われようが、そんなことが1回あればうれしいもんじゃないですか?」
「お客さん乗せてよかったなぁ。津軽弁が笑われるんじゃなくて、褒められたみたいでうれしいなぁ」
「いやいや、楽しく乗せてもらったほうが、僕も気分いいですからね」

僕がいい人である自慢話みたいになったがそうではない。
タクシーの運転手さんの人柄がとても柔和だったから、こうなったのである。
この後、この運転手さんはちょいちょい津軽弁を入れて話をしてくれた。語彙がわからなければ聞けばいい。なんて意味ですか?って。
でも、意外とわかる。おらが国の言葉には感情がしっかり乗っかるから。

大阪弁には4つ(以上)の方言がある。
日本には何百という方言とその亜種があるだろう。
その言葉すべて、額面通り、文字面通りの意味以外を持つ言い回しや、操り方があると思う。
お国言葉を使うのが一番ストレスがないはずだ、とも思う。

東京の人が僕ら東京以外の人に言う「標準語」は東京弁のことを指すようだが、
僕は東京弁が標準語とは思っていない。
標準語はどこにもない、と思っている。
日本全国の人が理解できる、合理的な伝達手段として機能する語彙・発音集だと思っている。
東京は標準ではない。人口集積地だから標準化されている、というレベルだと思う。

お国言葉に誇りを持て。
青春時代に操っていた言葉で、
僕らは好きな人に告白しただろう?
あの時、感情をめいっぱい乗っけたじゃないか。

伝わったから、恋が成就したのかもしれない。
恋はかなわなくとも、きっと伝わったと思う。
言葉で表現できなかったことも、伝わったに違いない。

お国言葉に誇りを持て。
言葉に標準も、上下もない。


そうそう、僕は甲子園出身なので、「尼弁」です。
大阪弁、と文中にありましたが、そこはご愛敬。
ナニワなくとも、尼弁だけに甘めに見てね。コウベを垂れてお願いします。


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