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【一般TCG理論】なぜ人はデッキを弱くするのか

人間はいつも合理的ではない。ときにとても変な判断をする。

人のデッキを見ていると、「え、なんでそんな弱いカード入れちゃったの?(それならコピーデッキのが強いのに…)」と思うことがよくある。いや、偉そうに言っている自分の過去のデッキを改めて見ても思うことがある。

なぜ?どのようにこういった変な判断が起きるのか?

これを探り、自分の判断を修正し、より合理的な判断ができればそんないいことはない。

心理学と経済学の融合分野である行動経済学からプロスペクト理論というものを拝借し、人の不合理性がTCGに表れる原理を考察する。

プロスペクト理論

次のグラフは「幸福の変化の度合い」(効用、縦軸)が実際に得られた得られた利益(たとえばお金、横軸)に対しどう変わるか示したものだ(価値関数)。

出典: Wikipedia Prospect Theory

ここに現れているヘンな性質を説明する。

①非線形性

1000円もらえたとき、500円もらえたときと比べてどれだけうれしいだろうか?もしあなたが一貫した価値観を持っているなら、金額が倍なのでうれしさも倍である。 

ところが、図は直線ではない。なにもない状態から500円もらえるうれしさに比べ、500円からさらに500円もらえてもそんなにうれしくない。1,000円もらえる状態から1,500円もらえるようになっても嬉しさはさらに増えなくなる。

ピンと来ない人も、次のような経験はないだろうか。1,000円のつもりの買い物が1,500円だとわかりひどく損した気分になった。しかし別の日、10,000円のつもりの買い物で10,500円を払ってもそこまで気にならないかったということ。

人の幸福の増減は利益や損失に比例するのではなく、変化の大きさの全体に対する比に影響を受ける。

②非対称性

二つ目の特性は図の非対称性である。500円もらったときのうれしさと500円損したときのいやさは等しくない。

500円を損することによる"損した感"は500円を得た"お得感"に勝る。同額でも人は得するよりも損しないための努力をする。

以前母とコンビニに行ったときのことである。母はお金を下さなければいけないと言っていたので、下ろさなくていいのか聞くと、「手数料を払いたくないから銀行で下す」と言った。そのときは特に何も思わなかったが、よくよく考えると変である。コンビニATMの手数料は200円で家から銀行までは15分程度かかり往復30分である。母は高給取りでこそないが、時給400円で働くことはないし特に歩くのが好きというわけでもない。200円を得るために絶対しないような努力を200円を失わないためにしたのである。

同額の利益ために同時間の労働は絶対にしないが、損失を回避するためには努力をする人はどうやら私の母だけではなく、人間全体の傾向であることが実験によりわかっている(詳しくは参考文献[1])。

③損失回避

最後に図とは別にある、人間の意思決定の"変な傾向"を紹介する。

人間は得をするのが好きな以上に損をすることが大嫌いだ、というのは一つ前の話であるが、嫌いなあまり確率に対する判断が歪む。

利得に対してはリスクを避けるが、損失に対してはリスクを取る傾向がある。それが実は同じ状況であっても、聞き方次第で違う判断をするということだ。

それぞれの選択肢を選んだ被験者の比率をカッコの中に示している。

問題1 あなたは現在の富に上乗せして300ドルをもらったうえで、次のどちらかを選ぶように言われました。あなたはどちらを選びますか。

A 確実に100ドルもらえる(72%)
B 50%の確率で200ドルもらえて、50%の確率で何も失わない(28%)

問題2 あなたは現在の富に上乗せして500ドルをもらったうえで、次のどちらかを選ぶように言われました。あなたはどちらを選びますか。

A 確実に100ドルを失う(38%)
B 50%の確率で200ドル失い、50%の確率で何も失わない(64%)

リチャード・セイラー著、遠藤真美訳、行動経済学の逆襲、早川書房 P61

いずれの問題も整理すると400ドルをもらうことを選ぶか、300ドルか500ドルをそれぞれ50%でもらうことを選ぶかという二者択一である。

問題1については、72%の被験者が確実に400ドルをもらうことを選択している。これは価値関数の①の性質と一致している。50%でもらえる200ドルは確実にもらえる100ドルの倍嬉しくはないのだから、期待値が高い方を選択できている。一方で、問題2では過半数を得ている選択肢が逆転し、300ドルか500ドルをそれぞれ50%でもらう方がより選ばれている。

人は損をするのが大嫌いで、絶対に損をするという状況にどうしても耐えられない。だから確率的に損をしなくて済むのであれば、行動の一貫性を変えてでもそれを選ぶことがある。

あなたはちゃんと強いカードをデッキに入れられますか?

ではプロスペクト理論を踏まえたうえで、こんな状況を考えてみよう。デッキが残り4枚まで決まったとして何を入れようか考えている。

実際はわからないし、そうでないこともあるが、便宜上、よく使われる強い攻める同じカード4枚入れたデッキがベストだとしよう。

あるいは、こう考えても構わない。「4枚の攻めるカードAの枠を別のカードと入れ替えるか考えている」状況。

便宜上こうしたが、相手がどんなデッキかわからないので、こうするのが正解であることが多い。しかしこの単純な正解に辿り着くことは私の経験上難しい。よくある失敗パターンと原因を考える。

失敗パターン①:守るだけの勝たないデッキ

相手のカードを除去したり、対処するカードで枠を埋めたデッキで、妨害が豊富なのですぐに負けることはないが、攻めるカードが足りないのでゲームが長引いて結局負けるパターン。(どきっとしない?そういう人よくいない?)

「自分が有利になるうれしさ」に比べて「自分が不利になる嫌さ」を過大評価して、本当は攻めた方がいいのに相手に〇〇されたくないベースで考えると陥りがちだ。

失敗パターン②:よくわからない謎カード満載デッキ

枚数を散らして色んなカードを入れた謎デッキ。はたから見ると「え、普通に強いカードを入れたらいいんじゃない?」と大変不思議なのだが、状況次第では別のカードのが強かったりもする。だから本人的には散らしたほうがよさそうな気がするのである。

強いカードがあまりにも簡単に減らされる気がするので、減らしている友達を見つけたら理由を聞いていたことがある。すると、なんとなく減らしてもいいかと思ったとなんかすごいぼんやりとしたことばかり返ってきた。どうやら、4積みのカードはなんとなく減らしやすいようである。

おそらくこれは3枚の強いカードを4枚にしても嬉しさをあまり感じないのに対し、0枚だったカードを1枚入れるとなんだかとても良くなった気がするからだろう。

失敗パターン③:どんな相手にも(運が良ければ)勝つ弱いデッキ

「〇〇に強いカード」や「××に出せば勝つカード」みたいなキラーカード満載デッキ。いや引ければ強いんだけどさ、強くない相手のが多いカードばっかにしちゃったらデッキとして弱くなるよね?というもの。

これは、「どうしても勝てない相手が存在すること」が許せないため、確率的にどの相手にも有利な展開が起きるデッキを評価してしまうからだろう。その確率がとても低かったり、そのデッキの平均勝率が低かったりしても。

時には、特定の少ないデッキタイプには当たったら負けで仕方なしと割り切ることで平均勝率が上がる。しかし、あの相手に当たったら勝てないという状況を受け入れるのは難しいのだ。


以上。どきっとしたり、こういう人見たことがある~!と思ったりしたものもあるのではないか。

場合によっては、今回挙げた失敗例のような配分がいいこともあるだろう。しかし、ふとしたときに変な認知バイアスがかかっていないか考え直せば、よりよい判断ができることが増えるに違いない。

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参考文献

[1] リチャード・セイラー著、遠藤真美訳、行動経済学の逆襲、早川書房
[2] 箱田 裕司、都築 誉史、川畑 秀明、萩原 滋著、認知心理学 (New Liberal Arts Selection)、有斐閣

おもろいこと書くやんけ、ちょっと金投げたるわというあなたの気持ちが最大の報酬 今日という日に彩りをくれてありがとう