トライオームはマナベースの万能薬か
《虚空裂き》から生じた疑問
あなたは《虚空裂き》を強いと思うか?
SNSを見る限りこのカードを評価する人は一定数いるようだ。対して私の評価はというと、
あーまあスタンのレアだしこんなもんじゃない?色が合ってれば75枚に1枚か2枚、もしかすると3入る可能性もなくはないんじゃない?
ぐらいである。
なんというか、まあそんなもんじゃねって感じだ。
このカードを評価するにあたり、まず第一の疑問として3マナで除去を使って強いのか?だ。現在スタンで評価が高い除去は2マナのものである。
2マナと3マナは大きな違いである。
一方で、多色を対象にできない《消失の詩句》や、特定のタイプを除くクリーチャー限定の《パワー・ワード・キル》と比べ《虚空裂き》には対象タイプを選ばない汎用性がある。
この議論は重要であるが、まあここではどうでもいい。軽さと汎用性どちらも重要であり、環境や採用するデッキによってどっちもいいところがあるよね。環境ができて使ってみれば自ずとどっちがいいかわかるじゃん?
ここで考えるのはそれよりもマナシンボルのほうである。
もし仮に、1マナ多く払ってもいいから汎用性大事!汎用除去を使いたい!となったとしよう。では《虚空裂き》をメインに4枚入れるか?
私は入れたくない。
1枚や2枚の採用に比べ、4枚の採用となると3マナのアクションとして見たくなることが大きな原因だ。枚数を増やせば引く確率が上がるというのは勿論だが、重ねて引く確率の上昇に留意する必要がある。
2枚入れれば複数引く可能性が生まれ、3に増やせばその可能性は3倍程度になり、4にすればさらに2倍程度になる。例えば初手の7枚で考えたとして、2枚のカードを60枚から両方引く確率は1.2%。4枚のカードを2枚以上引く確率は6.3%である。4枚採用するとはそういうことである。
カードには強いタイミング弱いタイミングがある。1枚だけであれば、そのカードが弱い手札であればマリガンして、また来たらボトムに置けばよい。ゲーム終盤ではマナ効率の悪いカードでも最後の1枚であれば、マナ効率度外視で使ってよいことが多い。
しかし、複数引いてしまったら1マリでキープできる手札がキープできなくなってダブマリする必要が出るかもしれない。またゲームの最後に使う1枚は1枚のみ。2枚目はない。
何が言いたいかというと、4枚入れたいカードというのは、そのカードをそのマナコストのターンで唱えられる前提でデッキに入れることが多いということだ。出せば勝つレベルの強いフィニッシャーカードであれば話は別であるが、除去のような相手を妨害して場をしのいだり、テンポを取るカードに関してはこの傾向が強い。
3マナなら3Tに使ったり、5Tに2マナのアクションと合わせて使ったりできなければ困る。
現在のスタンダード環境もこれを後押ししている。スタンでは3マナのカードが強いデッキが多い。
ナヤルーンの1T《気前のいい訪問者》、2T《樹海の自然主義者》、3T《ルーン鍛えの勇者》であったり、
オルゾフミッドレンジの2T《光輝王の野心家》、3T《婚礼の発表》、4T《放浪皇》であったり
1~3や2~4に強い押し付けムーブが存在するものが多い。それをいかに綺麗に通すか、あるいは相手のそれをいかに効率よく妨害するかが焦点となるゲームが多い。このようなコントロールの少ない、アグロ~ミッドレンジ環境である。
3マナの除去が受け入れられるか、は別として、4マナの除去が受け入れられる可能性は極めて低い。3Tに使えず、4Tに使う《虚空裂き》はやってみるまでもなくアンプレイアブル。
なので、「《虚空裂き》がデッキに4枚入るカードであるか」という議論はより一般的な「3Tに3色を出す前提でデッキを組んでも良いか」という議論を包含していると考えている。
トライオーム、スロウランド、MDFCのマナベース
ここはニューカペナ。3色推しのニューセット。イコリアで5種類登場した、サイクリング付きの3色の残りの5種類が収録されている。
これに加えてイニストラードのスロウランドにゼンディカーのMDFC。これだけの使いやすい多色土地があるのだから3色デッキを作るのはさぞ簡単だろう。・・・本当にそうか?
前述のように今は3マナアクションが強く、2,3ターンにアクションを取ることは極めて重要である。なので、2T、3Tの土地のアンタップインはできなくては困る。
例として、本記事の残りでは次のような3色デッキを想定する想定で考える。
合計土地枚数は26枚。
2Tにタップインする土地であるトライオームとスロウランドが合計11枚。
2Tにアンタップインする土地であるMDFCと基本土地が合計15枚。
3T以降はトライオームを除く全ての土地がアンタップインだ。なのでより重要であるのは2Tに土地をアンタップインできるかどうかである。15枚ある2Tアンタップイン土地を初手に1枚でも引く確率は88%。
7割のゲームと言われるMTGで88%は十分に高い確率だ。3色デッキを使うデメリットは十分に小さいとわかった。完。
とはもちろんならない。なっていたらこの記事を書いていない。上の議論は何がおかしいかというと、88%の中身を見ていないことだ。「アンタップインを1枚以上引く」初手のパターンには、7枚とも土地のパターンや土地が一枚しかないパターンも含まれている。そのようなキープしない初手は問題があるので、それを含めた確率88%を見て大きいから問題なし!と言うことはできない。真に考えるべきはキープできる土地枚数の初手でかつその色に問題がない確率だ。
マナベースの議論の前提
出る色の議論の前に、キープできる初手の土地枚数の議論の必要がある。
まず、土地が0, 1, 6, 7枚はマリガン。そして3, 4枚はキープ。これはいいだろう。では2, 5枚の時はそれぞれキープできるだろうか?
土地が5枚の場合について、土地を伸ばすことが重要なイゼット天啓のとうなデッキが支配的なときならキープしやすい土地枚数である。だが今は軽いアクションをテンポよく取ることが重要な環境。4Tまでのアクションのうち二つしか保証されていない土地5枚の初手はキープしにくい。
では土地2の場合について。喜んでキープする枚数ではないが、検討に値する。3のアクションが強い環境なので、2から3に土地が伸びないことは致命的であるものの、3から4に伸びなくても比較的きつくない。4Tにも3マナのアクションを取ることができればゲームになる。土地2スペル5で何か土地を1枚引きさえすればアクションを続けられるという初手は土地5に比べて悪くない。
そして土地2の初手をキープできるかは極めて重要。確率を見ると土地2の確率は23.4%であり、土地3の初手のものに次いで2番目に高いからだ。もし土地2が全てキープできなければキープできる初手は3と4の54.4%。だが、もし土地2の初手が全てキープできるとすると77.8%である。天と地の差だ。土地2でキープできる初手のパターンを増やすことがキープできる初手を引く確率を増やす一番の近道であるわけだ。
実際初手土地2枚は先攻ならだいたいマリガン、後攻ならドローの機会が多いからキープが多いという程度の枚数だと思う。ではマリガンして土地2の場合はどうか。4Tまでのアクションを埋めることが至上目的であるならば、ワンマリ土地2はキープだ。なぜならダブマリしたら土地2スペル3を手札に残すからだ。マリガンしてもスペルが1枚減るだけなので、土地枚数を理由にマリガンすることはない。
以上から、現環境でのマナベースの議論において、いかにキープに耐える土地2の手札のパターンを増やすかが重要ということをご理解いただけたと思う。
3色デッキでの土地2キープのリスク評価
重要なことは次の二つだ。
・2Tにアクションを取れるか?→2Tにアンタップインできるか?
・4枚入れた3色カードは3Tに使えるか?→3Tに3色を出せるか?
では、土地2枚の組み合わせとその確率を見ていく。
土地内容を再掲する。
①タップインライドとアンタップインランドを一枚ずつの場合
ベストな組み合わせ。2Tにアンタップインできる。デッキ内の残り24枚のうち、MDFCを置いた側と同じ色の基本土地1枚を除いた23枚のいずれかを引けば3色のスペルを唱えることができる。2枚の土地を引いている前提でこの組み合わせが来る確率は50.8%。
②タップインランドを二枚の場合
色は出るが2Tにタップイン。トップからアンタップインを引くことができれば良いが、アンタップイン土地は残り24枚のうち15枚。先攻ならトップ1枚、後攻なら2枚のうちにある確率はそれぞれ28.3%と49.0%。分が悪い賭けである。リスキーな組み合わせ。この組み合わせの確率は16.9%。
参考程度に、なんらかの土地がトップにある確率は45.3%、トップ2枚にある確率は71.5%である。
③アンタップインランドを二枚の場合
2Tのアクションは保証される。MDFCは置いてしまえば変えることができず、1色のみしか出さないというデメリットがある。3Tに3色のスペルを使いたいという前提であれば、同じ色の組み合わせのスロウランド、MDFC、および基本土地は引いても嬉しくない。スロウランドを3枚とすると、引いて嬉しい土地は残り24枚のうち16枚。さらに先攻で2, 3Tにアクションを取りたければトップトライオームでもいけないので2Tにトップしたい土地は12枚。②の組み合わせよりさらにシビア。やはりこの組み合わせもリスクである。この組み合わせの確率は32.3%。
以上から、2色のデッキと比べ色を足したことがデメリットとなっていない組み合わせは50.8%の①の場合のみである。2色であればもっと少ない②の場合の確率が3色にしたことにより上がり、③の場合が3色にしたことにより許容できるトップが絞られている。
逆に言えば3色にしたことにより、土地2の手札の組み合わせの半分が大きなリスクをはらむものとなっていると言える。
1マリ土地2キープの場合はトップで確率的に解決されるので、これで半分は言い過ぎではないか、と反論があるかもしれない。一方でこの半分という割合は、初手の土地2をマリガンする大きなインセンティブとなり、キープ率を下げることは間違いがない。
まとめると、トライオームの追加によりマナベースの問題が緩和されるという見方は、2TタップインのリスクとMDFCのデメリットを過小評価している場合が多いと私は考えている。
3色デッキはどうなる?
では3色カードはどう使われるだろうか?ありうる未来を考えてみる。
シナリオ①
ニューカペナの3色カードは使われない
あまりにも悲しい。こうなってほしくはない。
シナリオ②
壊れカードが発掘されて3色デッキが使われまくる
《創造の座、オムナス》レベルの強いカードであれば、色拘束がきつく採用リスクが大きくても、リターンがあまりにも大きいため使われる。私はいまのところ気づいていないが、もしかしたら見落としているだけでニューカペナのオムナスがいるかもしれない。
シナリオ③
土地5の初手をキープしやすいデッキが強い環境が到来、3色デッキが広く使われる。
一番ワクワクする展開だ。新セットで環境が変わりそこでの未知のデッキを探求することに勝る喜びはない。是非ともこうなってほしいし、こうなるように頑張りたい。
シナリオ④
タッチカラーとしての3色目が使われる
2色をメインにデッキを構成し、強い3色カードを少しだけ採用する。MDFCはメイン2色を優先して置くことでリスクを軽減というアプローチ。
無難。ありそう。
あなたはどう思う?どうなって欲しい?どうしたい?
新しい環境を作るのは我々だ。新セット、楽しもう!
おもろいこと書くやんけ、ちょっと金投げたるわというあなたの気持ちが最大の報酬 今日という日に彩りをくれてありがとう