トレードオフを考える: エッジウォールを置くターン

はじめに

 人は問いに対し普遍で一意的な答えを欲しがるものであるが、残念ながら現実にはそのような答えが存在する場合は多くない。一つの要求を突き詰めるだけでなく、複数の要求により決定される複雑な状況での最適点を探す必要があるケースが大半である。土地枚数や配分の決定、デッキタイプやカードの選択や特定のカードを特定のターンにプレイすべきか否かなど、「どうすればいい?」という問いを見かけることは少なくないが、「状況による」としか言いようがない。いずれも複数の要求が競合するトレードオフの問題であり常に真である答えは存在しないからだ。しかし「状況による」、言い換えれば「わからん」と言ってしまうのは疑問を持つ者に対しあまりに酷である。カードゲームは有限な選択から一つを選び続ける競技であり、取りうる選択としてどのようなものが存在するかという気づきとその中から適切なものを選ぶ決断力により得手不得手が決まるものである。そこで、典型的なトレードオフについてなぜそこで悩む必要があり、どのような要因を考慮した決定が必要であるかを書き起こすことはプレイヤーの有意義な議論と筆者自身のプレイヤーとしての成長に有意義であると考え、本記事を執筆するに至った。

1. 出題

 本記事では「エッジウォールの亭主を何ターン目に置くか」について論ずる。次のような手札を引いたとき、あなたは何ターン目に《エッジウォールの亭主》をプレイするつもりでゲームプランを立てることが多いだろうか?

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 《森》×2、《島》、《山》、《エッジウォールの亭主》、《砕骨の巨人》、《恋煩いの野獣》
 引いている土地は基本土地だけの簡単のために単純化した手札であるがいくつかの選択肢がある。

リスト全体は下のものを想定。

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 前提として、《エッジウォールの亭主》は誘発能力に価値がある。単なる1/1クリーチャーとしての価値は低く、手札を一枚使って取るアクションとして割に合っていない。(もちろん、相手ライフが残り1の場合などではこの限りでないが、普通1/1/1バニラを構築でデッキに入れることはないだろう。)つまり、「《エッジウォールの亭主》をいつ置くか」問題において最大化したい値は「《エッジウォールの亭主》の誘発回数」である。

 発生するトレードオフはバリューvs安定性だ。ここでバリューを取るプレイとは「相手が想定通りの動き(こちらのしてほしい動き)をしてきたときや何も妨害をしてこなかったときに最も強いプレイ」を指し、安定性を取るプレイとは「相手が想定しうる中でも特に強い引きをしてこちらに嫌な順でプレイしてきたときに最も強いプレイ」を指すものとする。具体的には、バリューを取るプレイは《エッジウォールの亭主》が除去されないことを期待し、速めに盤面に出すことで複数回の誘発を狙うプレイであり、安定性を取るプレイは《エッジウォールの亭主》が除去される場合を考え、誘発の最低回数が担保されるターンまで待つプレイである。

 では、具体的にどのターンがよいか検討する。
① 1ターン目
② 2ターン目
③ 3ターン目
④ 4ターン目以降
 まず、排除していい可能性を考える。③3ターン目は選ぶ必要がない。4ターン目には《エッジウォールの亭主》+出来事クリーチャーの二枚キャストにより、一回の誘発が担保された状態で《エッジウォールの亭主》を置くことができるためもう1ターンを急ぐ必要がないからだ。4ターン目に1マナを立たせる必要も薄いので《エッジウォールの亭主》の4ターン目のキャストはタダのようなもの。

 よってゲームプランとしては次のようになる。
・バリューを取る→ ①1ターン目あるいは②2ターン目
・安定性を取る→④4ターン目以降

 一般的な長所と短所を比較したうえで、各状況における比較を行う。

2. 一般的な話

・1ターン目に《エッジウォールの亭主》を出す場合
 1T《エッジウォールの亭主》、2T《砕骨の巨人》の踏みつけ、3T《砕骨の巨人》あるいは《恋煩いの野獣》の本体とマナカーブ通りに動くことができる。《エッジウォールの亭主》が除去されず、相手が踏みつけで倒せるクリーチャーを出してきた場合には最強の選択であるが、相手から見て《エッジウォールの亭主》を誘発前に除去する機会が最も多い。

・2ターン目に《エッジウォールの亭主》を出す場合
 短所として、この選択肢を取る場合、踏みつけを2マナから使う選択肢を捨てることになる。また、1Tに《恋煩いの野獣》の出来事面を使用していると1マナを無駄にすることになる。
 長所としては1ターン目に出した場合と比べ相手が《エッジウォールの亭主》を除去できる機会が減るため、後攻の場合などは除去させることにより相手のテンポロスを狙うことができる場合がある。
 加えて、選択の保留後の選択肢としての価値も存在する。リスト非公開制の対戦で、バリューと安定性のどちらを取るべきかわからないとき、1Tに《恋煩いの野獣》の出来事面を唱えプランの決定を保留し、相手の置いた土地の色を見てから2Tと4Tのどちらに置くべきか選ぶことができる。

・4ターン目に《エッジウォールの亭主》を出す場合
 《エッジウォールの亭主》でのドロー枚数が最低1枚担保される選択肢。アドベンチャーデッキでは3Tに出すクリーチャーが強く、3Tをパスするケースは稀であるため、相手がもし除去を持っていなかった場合は結果的に誘発によるドローを一回逃す形になる。

3. 相手や先攻後攻を考慮する

 環境はカルドハイムスタンダードを想定。

3.1. 黒系コントロールが相手の場合
 基本的に1:1交換を繰り返して重めのフィニッシャーで勝つことを狙う相手である。《エッジウォールの亭主》と除去スペルを交換することは相手にとって得であることが多く、誘発前に除去されたくない。除去スペルの枚数が多いため除去される確率も高い。そのため基本的に4T以降に置くプランを取りたい。
 例外となるケースも存在する。例えば相手がダブマリしていて先攻の場合、黒系コントロール側が1:1交換を繰り返すことで得をするという前提は崩壊する。《エッジウォールの亭主》が除去された場合、相手は手札が3枚少ない状態になるため、有利な方向にゲームが進んだと考えることができるからだ。となると、相手が《影の評決》による1:2以上の交換を狙っているのであれば4Tにクリーチャーを複数展開してターンを渡したくはないので3Tのクリーチャーキャスト時にドローしておきたいかもしれないし、土地3枚と《耕作》、《出現の根本原理》を残していたと予想するなら誘発回数を増やしてカウンターを引く確率を引く確率を上げたいかもしれない。

3.2. 白単アグロが相手の場合
 白単アグロは先攻後攻で置きたいターンが変わる良い例だ。
 《エッジウォールの亭主》の処理のされ方で一番嫌なのは《スカイクレイブの亡霊》だ。《エッジウォールの亭主》を追放した《スカイクレイブの亡霊》を除去しても大した脅威にならない1/1トークンしか出てこないためほぼフリーの除去である。追放されていたカードが《恋煩いの野獣》か《砕骨の巨人》ならば3/3という悪くないサイズのトークンが出るため話は別であるが。
 もう一枚の除去手段として《ガラスの棺》があるが、こちらについては相手クリーチャーにサイズで勝る《恋煩いの野獣》は相手にとってマスト除去なので、《エッジウォールの亭主》が身代わりになってくれたと考えれば問題ない場合も多い。(白単の使う三種類目の除去に《エッジウォールの亭主》が対象外の《巨人落とし》があるので相手の手札次第ではそうではないが)
 以上より、相手の《スカイクレイブの亡霊》より先に一度《エッジウォールの亭主》を誘発できる先攻であれば、1Tに《エッジウォールの亭主》を置きたい場合が多く、後攻であれば4T以降まで持っておきたい場合が多い。

3.3. 赤系アドベンチャーが相手の場合
 必ず考えなければいけないのは《砕骨の巨人》。ふみつけでリソースを減らさずに除去されるのはおいしくない。基本的には4T以降まで《エッジウォールの亭主》を持っておきたい。
 例外になりうる状況として、相手が先攻かつ、2Tにタップイン処理や予顕、《恋煩いの野獣》のトークン生成などの特にこちらが踏みつけを使いたくならないアクションでマナをタップしてきた場合がある。なぜこれが例外になるかというと、アドベンチャーデッキは基本的に3マナのクリーチャーが強く、このタイミングで場に出した《エッジウォールの亭主》を誘発前に処理するためには3Tにクリーチャーを置くことを諦めなければならないからだ。カードアドバンテージでは損をしても、相手の先攻のテンポアドバンテージを失わせることで有利になる場合はあるので、検討の余地がある。

最後に 

 本記事では比較的単純な初手について、《エッジウォールの亭主》を出すターンのトレードオフについて筆者が考えるであろう内容を述べた。
 しかし、基本土地しか引かず、色も全て揃っているという比較的単純な問題設定をしたため、実際のゲームではさらに次のような場合の考慮が必要な場合もある。
・トップしたカードは何か
・タップイン処理をいつするか
・MDFCをどちらの面で置くか
・相手が既存でないアーキタイプを使用している場合どうするか
 また、本記事では記述しきれていない例外や筆者がそもそも気づいていない例外もあるかもしれない。
 そのため、本記事がプレイ指針として完全と言い難いことは間違いないが、それでもこれがトレードオフについて考えるきっかけとなり、プレイスキルの向上につながった読者がいたならば望外の喜びである。

おもろいこと書くやんけ、ちょっと金投げたるわというあなたの気持ちが最大の報酬 今日という日に彩りをくれてありがとう