スタンダードクイックガイド グリクシスミッドについて

最近のスタンダードでグリクシスミッドレンジのシェアが多い。最近の動向はようわからんけどスタンをクイックスタートしたい人へ。

大前提:グリクシスミッドレンジが流行った経緯

まずグリクシスがどういう経緯で流行ったどういうデッキかについて。グリクシスを使うのか別のデッキを使うか判断するための材料に使って欲しい。

エスパーミッドレンジの隆盛

今のスタンダードは3マナ域のカードが強い。グリクシスミッドレンジでも使われている《鏡割りの寓話》はスタンダードで(下手したらパイオニアでも)最強のカードと言っても反論はほぼないだろう。

他のスタンダードを代表する3マナ域だと《策謀の予見者、ラフィーン》や《婚礼の発表》がある。これらを使ったエスパーミッドレンジが前セットの団結のドミナリア(以下DMU)環境で使用率最多デッキであった。

グリクシスより先にエスパーが流行った理由としては、前セットの団結のドミナリアのリリースと共にローテーションが起きて環境が混沌としていたことが大きい。というのも、DMU環境で使える多色土地はトライオーム、スロウランドにダメランである。3色デッキはカードパワーと引き換えに2Tのアンタップインのためにダメランを採用することが不可欠になる。そうなると、アグロを含む多様な環境での勝率のぶれが大きくなり勝ち切るのが難しくなる。

そんな中で真っ先に勝率を安定させたのがエスパーだった。《英雄の公有地》のおかげでダメランの採用枚数を抑えることができ、《敬虔な新米、デニック》などの絆魂クリーチャーのおかげでダメランのデメリットをある程度相殺できる。DMUスタンの最後を飾る世界選手権2022でエスパーミッドレンジは参加者32人中22人となった。世界選手権のリストやマッチ、結果等はMTG MELEEから確認できる。リンクを置いておく。

世界選手権がグリクシスへの流れを作る

その世界選手権で優勝したのがNathan Steuerのグリクシスミッドレンジである。グリクシスはエスパーよりはちょっと弱いが、エスパーに有利というデッキだ。

2, 3, 4ターン目にマナカーブ通りにソーサリータイミングのアクションを取ったときの強さはエスパーのが上だ。だが、3マナのアクションを通せるか、強く使えるかというゲームになると話は別である。2ターン目にソーサリータイミングのアクションを取ることをやめて、除去やカウンターを使うようになるとエスパーにグリクシスが勝つようになる。

というのも、まずエスパーのエースカードの《策謀の予見者、ラフィーン》が2Tのクリーチャー展開を前提としたカードだからだ。《策謀の予見者、ラフィーン》は出したターンに既に場にいるクリーチャーで攻撃して誘発すれば強いが、そうでなければ大したことはない。それに対して《鏡割りの寓話》は出しさえすれば強い。

もう一枚のエスパーのエースカードである《婚礼の発表》も《鏡割りの寓話》との相性が悪い。というのも、お互いがこれらのカードを出し合えばどうなるかを考えてみればわかるはずだ。まず《鏡割りの寓話》側が先手であれば、後手で《婚礼の発表》を出されたら安全にゴブリントークンで攻撃できて《婚礼の発表》側が圧倒的に不利。それに対して《鏡割りの寓話》が後手だと不利かというとそうでもない。《婚礼の発表》から出てるトークン2体とゴブリントークンで相打ちにしかならない。エスパー側が4Tに壁になるクリーチャーを出していても、除去を使えばいいし、《鏡割りの寓話》の2章の手札入れ替えで除去を引きにいくこともできる。

DMUリリース直後の混沌とした環境とはもう違う。世界選手権という大舞台でトッププレイヤーにより磨かれたデッキが公開され中途半端なものが入り込む余地は小さくなった。グリクシスはエスパーに比べると強くないとは言ったが、エスパーに比べればの話で結構強い。新しいデッキにわざわざ持ち変えるインセンティブも、グリクシスに不利なエスパーに乗り換えるインセンティブもないプレイヤーが大半、というのが現状だろう。

グリクシスミラーの常識

そんなわけでグリクシス以外が参入するインセンティブが低い環境であるので、グリクシスはミラーに強いカードが多くなったり、メインからミラー用にサイドボードした状態になっていたりする。

リストの引用元使用ツール

これぞというリストが12/10のSTANDARD SHOWCASE QUALIFIERで準優勝していた。使用者はJaberwockiことMRLのLogan Nettles。赤黒系のデッキでは定番の《税血の収穫者》が2枚サイドに押しやられ、メインにはこれでもかというほどミラー用のカードが採用されている。これに入っているカードを見ながらグリクシスのゲーム感を解説する。

《かき消し》について

3マナのアクションが強いなら2マナのアクションで最も強いのは?後手であるならば相手の先手3ターン目の3マナアクションへのカウンターである。後攻2ターン目、自ターンのパスから相手の《鏡割りの寓話》を《かき消し》、自分が先に《鏡割りの寓話》を通して先手後手のテンポを逆転させることができる。

ここで重要なのは、《鏡割りの寓話》をカウンターすることは目的でなく手段である部分が大きいということ。目的はテンポの逆転である。というのも、先攻が3ターン目をパスして相手の《鏡割りの寓話》のために《かき消し》を構えることが強いかというとそうでもない。もし相手が《かき消し》を持っていないのであれば、自分の《鏡割りの寓話》を出せたうえでの相手の《鏡割りの寓話》はどうでもいい。攻撃して宝物を先に出すのは自分。《鏡割りの寓話》が裏返って先にコピーを作るのも自分で先攻の有利は保持される。

それに対して相手が《かき消し》を持っているとすると相手に先に《鏡割りの寓話》を使われてしまい、トークンに攻撃されて宝物を出されて《鏡割りの寓話》の裏面の処理を迫られてで先手のテンポでの利が消滅する。ではお互いに《かき消し》の範囲外の5マナあたりまで動かずにいるとどんなことが起こるかというと、これもまた先手の利が薄まる。現在のスタンダードの先攻有利は3という比較的軽いマナ域での攻防が重要であるからだ。先攻が3マナ、相手が2マナを使えるときの差は1.5倍ある。だが5と4ではそこまでの差がない。ダブルアクションを取れば誤魔化せる差まできている。

《勢団の銀行破り》について

《かき消し》をケアしてだらだらと利が消えていくのを先手が黙って見ているかというとそんなわけはない。現スタンの先手有利システムは3マナのパワーカードに《勢団の銀行破り》が加わり完成される。先攻は2ターン目に《勢団の銀行破り》を安全に設置できるが、後攻は返しに《鏡割りの寓話》を安全に通されるリスクを取る必要がある。

後攻が《鏡割りの寓話》を使われないように《かき消し》を構えて3ターン目をパスすると、《勢団の銀行破り》で先攻はマナを手札に変える。そしてまた先攻がターンをパスしてきたら、後攻は相手の手札だけ1枚増えた状態で4ターン目を迎えることになる。こうして、先攻はテンポでの利をカード枚数の利へ変換することで優位に立ち続けることができる。後攻としてはいいタイミングで《削剥》を使ってこれを防ぎたいのである。

《眼識の収集》について

ここまで、それぞれのカードが欲しい場面である体で説明をしてきたが実際はそうではない。《かき消し》については実際はなくても、あるフリをしていれば、《かき消し》がない場合の最善のアクションをとらないでくれるかもしれない。しかし、先攻2ターン目に《勢団の銀行破り》を置けるかは引けるかどうかだ。そうなると5枚目以降の《勢団の銀行破り》が欲しくなる。それが《眼識の収集》である。

これは後攻の《削剥》についても言える。相手の《勢団の銀行破り》を《削剥》できるかは引いているかどうかである。相手が《勢団の銀行破り》を出してきて《削剥》がない場合でも、相手が何もしてこなかったとき《眼識の収集》でマナをリソースに変えることができれば後攻のカード枚数での利を保持できる。

逆に相手が《勢団の銀行破り》を出してこずに《削剥》を引いてしまっている場合も考えられる。そこで先攻側が《眼識の収集》を持っていると、これもまた先攻が《勢団の銀行破り》を出してきて後攻が《削剥》を持っていないのと同じ状況。《勢団の銀行破り》をめぐるゲームで後攻の視点では《削剥》で相手の《勢団の銀行破り》を処理するよりも、《眼識の収集》でアドバンテージを自分も取るという方が普遍性のある対処方法なのである。(《削剥》はクリーチャー除去にも使えるという別の汎用性から採用されているわけだが。)

《眼識の収集》の先攻《勢団の銀行破り》への回答としての機能を別の側面からも強調しておきたい。理想的な話をすれば、後攻が《呪文貫き》や《強迫》で《勢団の銀行破り》を未然に防ぐという状況もありうる。だがこられのカードは《勢団の銀行破り》を出された後に引くと驚くほど弱い。それに比べると、いつ引いてもある程度の活躍をする《眼識の収集》は上振れこそしないが下振れもせず安定しているのだ。



以上、お読みいただきありがとうございました。
私は記事で言及したリストどころか、現スタンのグリクシスミッドを全く回したことがないのでもしかしたら見落としがあるかもしれません。読んで納得した範囲で参考にしていただければ幸いです。

おもろいこと書くやんけ、ちょっと金投げたるわというあなたの気持ちが最大の報酬 今日という日に彩りをくれてありがとう