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書籍関係従事者の積読本2023(まで)

本を扱う仕事をしているとよく言われます。「本が好きならたまらない仕事でしょうね」「たくさん本読んでるんですよね?」「おすすめの本とかいっぱい知ってるんだろうな」と。それを言われるたびに思うのです。

休みの日にまで本読みたくねえんだよな……と。

何かと言いますと、それなりに本は読んでいるのですが、仕事の目線で読んでいるもので、趣味の読書とは別物だからです。たとえば書評を一つ書くにしても、個人的な好みの本を紹介するわけではありません。テーマに沿っていくつか候補を選書するところから始まり、実際に読んでみて肩透かしを食らうこともあり、そうしたらまた別の本を探すところに戻ります。ここで趣味ではない既読本が嵩みます。
読むにしても、対象層に合っているか、自分の職責で紹介していいものか、上に差し止めされるような懸念要素はないだろうか、この本のどこがよくてどう紹介したらいいか……などを考えながら読んでいるので、やはり娯楽というよりは「仕事」になります。なのに職場でガッツリ本を読みこむわけにはいかず、じゃあいつ読むのかといえば終業後か休日になるわけで、全然めちゃくちゃ時間外労働なんですよね。そもそもの待遇が悪いのに……どれだけ読んだって給料が上がるわけでもなくただ自分の時間が削られていくだけなのに……

…………。

今のは愚痴です。

そういうわけなので、時間外労働読書期間が終わったら読書とは距離を置きたくなるんですよね。本を読み疲れているので。通勤時間に読めば?とも言われますけど、始業前から仕事みたいなことしたくないし、タイムカード切ったらいったん仕事のこと忘れさせてほしい。寝たい。現代は読書以外にも魅力的なコンテンツに溢れているので、そちらにも触れたいですしね。隙間時間の奪い合いです。
あと休日は普通に休ませてほしい。

とはいえ、もともと読書は好きですし、たまにしっかり本を読み切ると「読書って楽し~!」と思える感情は残っています。また、仕事をする中で見かけた本が気になったら積読リストに入れたりもしています。そのうち、年単位で積んでるけどいつか読みたい本のことをいくつか、どうしてその本に惹かれたのか・どんなところが気になっているかという視点で書いてみようと思います。読んでいない本について堂々と語るnoteです。

前置きが長い。本題に入ります。


『生き物の死にざま』稲垣栄洋/著 草思社

これはもうタイトルで優勝じゃないですか。生き物の「死」にフォーカスを当てた生態の本、というのをユーモラスに「死にざま」と冠するセンス、天才。何についての本なのかもこれだけで説明不要ですしね。優勝!

死に様というのはむしろ生き様を表すもの、という理論が私の中にあります。どのように死んでいくか、というのはどのように生きたか・生きたかったかの集大成である。と思います。だからフィクションでも死に様をしっかり作り込んでいるものが好き。
なのでこの本はとっても私向きだと思います。人が死んでいく物語では人の死生観しか見れませんが、物を語らない生き物たちにもそれぞれの生き様がある。それを知りたい。だからいつか絶対に読みたい、と思いつつ未だに読めていません。
目をつけていた本が読む前に文庫化する悔しさってありませんか? 私はよくある。


『タコの心身問題――頭足類から考える意識の起源』ピーター・ゴドフリー=スミス/著  夏目大/翻訳 みすず書房

これもタイトルで気になって検索したもの。おもしろ動物雑学系の本かと思ったらちゃんとした真面目な本ぽかったので面食らった。

タコやイカなどの頭足類は腕に脳より多くのニューロンがあり、それぞれに脳があるかのように自律的に振る舞うのだそう。抄録にある「私たち人間とはまったく異なる心/内面/知性と呼ぶべきものを、彼らはもっている。本書は頭足類の心と私たちの心の本性を合わせ鏡で覗き込む本である。」という文言に惹かれます。
心というのは生き物の体のどこにあるのか、という問いは度々なされるものではあり、私は「脳」と考えてしまう方ですが、脳みたいな腕が8本も10本もある生き物がいるとなると話が変わってくる。一つの脳で物事を処理するだけでもいっぱいいっぱいに感じるのに、それがたくさんあるってどういうことなんだろう。
全く見当がつかないけど、ロマンがある。ので、いつか読みたい本。簡単ではなさそうだから、あんまり頭が疲れてない時によう……。


『極夜行』角幡唯介/著 文藝春秋

いくつもの賞を獲っているベストセラーなので言うまでもないのですが、うるせえ!私はまだ読んでない! プロローグをちょっと読んだところで忙しくなってしまったまま続きを読めずにいます。まだ旅に出てない。

夜というモチーフが好きです。いろんなものが曖昧になる時間に、神秘やおそれ、秘密、変化、いろんなものが隠せますが、それはいつか明けるからというところに魅力を感じている気がする。「夜明け前が一番暗い」という言葉が好き。人間、なんだかんだ太陽の光が必要な生き物だと思うし。
明けない夜ってどういうものだろう。4か月に渡る夜の明けに見る太陽ってどんなものだろう。極夜に興味はありつつも自分で体感はでき兼ねるなと思うので、紀行で読めるのならぜひ読みたい。

また、先ほど「死に様というのはむしろ生き様を表すもの」という話もしましたが、極限に至った人間にしか感じられない「生」もあるし、これがその貴重な一例だろうとも思います。


『射精道』今井伸/著 光文社

これは背表紙でタイトルが気になって頭から離れなくなってしまったもので……。2022年出版の本なんですが、この間どこかで見かけたときは7刷って書いてあった気がする。どうなんだろう。記憶が確かならすごいですね。1年ちょっとで7刷て。

すっとぼけたタイトルですが真面目な本だそうで、まあでもそのままです。射精にまつわる性教育の本。
私は女体で生きているのでそれなりに女体持ちとして嫌なこと、できれば男性に分かってほしいこと、など思うところがありますが、男体に対する理解もろくにないままでいることに引っかかりを感じてもいます。どうしても感覚的に分からない陰茎のことを多少なりとも学んで、男体に対する歩み寄りの姿勢を持ち、男女間のことを公平に捉えられる視点を持ちたい。という理由は今考えたものです。

単純に好奇心で読みたい気持ちもあります。真面目な下ネタ大好き。


『さみしい夜にはペンを持て』古賀史健/著 ポプラ社

文章論の本ばかり読んでないで他の勉強もした方がいいのは分かってるんですけども、これはそのうち読んでおきたいかも。自分が読みたいのもそうですが、紹介したい一面もありここに載せてみます。

SNSで常に誰かと繋がっている時代だからこそ、文を書くことで自分と対話してみよう、という触れ込みの本。依存先は複数あった方がいいとよく言われますが、文章という依存先は究極のローコストな上に他人に迷惑もかけないし無闇に期待して裏切られる心配もなく、手段の一つとして持っておくのはいいことかもしれません。出力方法にもよるでしょうが。
また、この本の趣旨かと察しますが、頭の中にあるものを言葉にするというのは自分と向き合うことでもあると思います。なんとなく感じていることにどんな言葉や言い方が当てはまるのか、と立ち止まって考えてみると、自分の心を見つめ直す必要が出てきます。思春期やSNS疲れによってアイデンティティがふらついてしまったとき、「文章」として書き出してみれば、それとなく形を与えてあげられるかもしれない。
文章を書くということが高尚な趣味なんかではなく、もっと気軽なものになって、少しでも心を軽くできる人が増えるといいなと思います。私もそうしたい。




年末に書こうと思っていたらいつの間にか年の瀬になっており急いで書き始めたので、今ぱっと出てくるのはこんなものです。私の好みがもろに出てしまった気がして恥ずかしいですが、どうしても読みたい本、で絞っていくとこういうふうになるものなんでしょう。
いろいろ考えていたら小説が無くなっちゃったんですが、取り立ててこれを絶対読みたい!というほどのものはなく、案外どれでもよくなっちゃうなと思いました。同じくらい読みたいし、同じくらい読み逃しちゃっても支障がない。実用書の方が唯一無二だったりしますね。

ついでに今更ながら弁明しておきますと、同僚の中には読書家ももちろんいますし、その読書量が功を奏することもあります。時間外労働だろうが嬉々としてたくさん読んでくる仕事大好き人間もいる。ただ私のように疲れたから読みたくないとなるタイプの人間もそう少なくないというだけの話です。読書が好きかどうかは職能にあまり関係ないですしね。

余談ですが、私たちの仕事は本に対して結構余計なことを考える羽目になったりするので、単に「おすすめの面白い本ない?」と聞きたいなら読書家の方に聞いた方がいいです。反面、本を読み慣れていないが何か試しに読んでみたいとか、具体的に知りたいことがあってもどう探せばいいか分からない、というときは本職の人間に頼るのが適切と思います。一人一人のニーズやご事情にあわせて提供するのは我々の方が慣れています。ご一考ください。


本来は年末に一本読書記録記事を書くつもりでnoteを始めたのですが、2年続けてもともとの趣旨とは違う記事になってしまいました。来年はどうだろう……。やりたいことが増えてしまったので読書記録を書けるほど読めるか分かりませんが、来年こそは退職に即した記事にしたい。仕事、辞めよう!

終わります。

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