見出し画像

妊娠アプリ  ラルーンと心の平安

女として生まれたからと言って、妊娠出産の知識が男よりあると思わないでいただきたいという話は前回した。

私は「女らしく」を毛嫌いしていた側の人間だ。
他人のこどもへのプレゼントに、ままごとセットをあげる友人を見たときは寒気がした。
(人間なんぞ生きていたらほっといてもいつか家事しなきゃならんのに、いまから「女だから」と家事が善行だとして刷り込むとか、もはやマインドコントロールだ。恐怖。)

中学の家庭科では裁縫好きな友人に作品作りをまるまる依頼したし、高校の調理実習の親子丼はほっとけば男たちがこぞって作ってくれた。注釈するけど、これは決して私が男に手料理を振る舞いたいと思われるような女だったわけではない。
男側の問題だ。「こいつ…。男ってだけで料理をすれば無条件に周囲に褒められてきたんだろうな」って感じの男だった。

いまのアラサー。私の偏見だけどちょうどそういう世代なんだよね。
「もうね、昭和のそういう時代じゃないのよ。お父さんと違ってちゃんとなんでもやれる男に育てなきゃ。」と息巻いてくれた母親たちのおかげか、呪いか、炊事をしたら過剰に褒められて育ってきたやつらが私たちの世代には一定数いる。
私はこれまで生きてきて、あらゆる場面でそういう「褒められて当然ですけど?モンスター」に出会ってきた。
特徴としては「俺がやるべきことではないけどやってやったぞ」が見え隠れしており、「調理場に立つこと」が目的となっている。だから出来は保証されないし、調理後は洗ってない食器がシンクに山積みで残されていたりする。

それに合わせて「彼、料理してくれるの」という女もきらいだ。
旨い料理を作ってくれたとかだったら全然自慢してくれて構わない。
お前は夫がうんこしても自分のためにうんこしてくれたと報告してくるタイプか?
男も女も均等に平等に、すごいものを生み出したときに褒めてやれ!!
芸術的なうんこだったら自慢してくれ。

話しがだいぶ逸れてしまったが、そんなこんなでジェンダーチックなものを極端に避けてきた。
新しいことを始めるには何事にも知識と情報が必要だ。
妊娠出産について、私はいやいやながら、しぶしぶながら情報収集を始めることにした。

情報収集にあたり、まずはおすすめに上がっていたラルーンとninaruというメジャーどころのアプリをインストールしてみた。Ninaruは日々の胎児の成長状態がわかる。
注目したいのはラルーンの方だ。生理日記録ができる普通の女性用アプリなのだが、このアプリの特筆すべきところは「悩み相談」という欄があること。
毎日毎日、数えられない量のスレッドが立つ。内容は、妊娠・出産、妊活、子育てのことに始まり、職場や義母との人間関係、仕事のこと、その他雑多なおしゃべりなどといった発言小町を彷彿とさせるようなカテゴリがあり、妊娠に関する基本的な情報はここでほぼ収集しきることができると思う。
自分以外の、自分と似たような境遇の人の話など、吐いて捨てられるほどあるのだと思い知ることができる。そう見せつけられると、スッと熱が冷め、妊婦という非日常から、平凡な日常に冷静に回帰できるためかなりおすすめだ。

ラルーンの特に良いところは、スマホで移動中に気軽にスレがたてられることと、その気軽に立てられた真水のような濃度の質問にすら1分もせずにコメントがつくところだ。2.5万人からインストールされており、とにかく異常に反応が返ってくる。
バカかよ!みたいな内容のスレにどんな反応が返ってくるのか見守りたいし、Twitterにつぶやくようなちょっとしたこともここで聞いたら10件は返事がもらえる。自慢じゃないが、私のTwitterのフォロワー250人はプロの殺し屋なみに息をひそめており、私が何をつぶやこうが一切反応がない。徐々に、私の専門分野について質問をあげているひとには返事をしてあげなきゃという、使命感まで芽生え始めた。社会保険と労務の相談にばかり回答していたら私です。

あれほどまでに女性特有の情報を集めるのを毛嫌いしていた私だが、使い始めて2か月、仕事中も覗いてしまうくらい立派なラルーンジャンキーとなってしまった。
自分でスレ立てもして、コメントもしていたある日、
私のペンネームをタイトルにしたスレを見つけた。
既に解決済みにされてコメントが受け付けられなくなったスレの本文にはこう書かれていた。
「この人、すごいやなやつです!!性格悪すぎ!!」

頭をなにかで殴られたような衝撃、とはこのことだ!
まず思ったことは、なんのこと?だった。
あまりにコメントを書き込みすぎていて、どこで誰の恨みを買ったのかわからなかった。せめて言い逃げのようなことをせず、コメント欄を開放しておいてくれたなら「気に障ったなら謝るけど、なんのこと?」と聞けたのに。そこが解決しないから、自分のどこを「性格悪すぎ」と評価されているのかわからない。モヤモヤした私は、こんなメッセージに意外とショックを受けていることに気付いた。こんな卑怯なやり方をする感性がねじ曲がったやつの言葉に、なぜそんなにショックを受けたのだろう。

半日置いて、名指しで批判を受けることが現実社会ではないからだ、という結論に至った。
僭越ながら現実では「優しい」、「寛大」とよく言われる。
ということは、だ。結論はひとつ。ネット上のやり取り間では排斥される、表情、外見、話し方、言葉選び、関係性、振る舞いといったあらゆるフォロー要素が、私を本質ほどには「キツく見せないでいてくれている」。だとしたら、私の処世術は30年生きてきた涙ぐましい努力の結果だ。
この出来事をきっかけに、社会で生きていくために、気を遣える大人になった自分を、私は今後も誇っていこうと思った次第である。

ラルーンのアプリ自体は妊婦の不安を解消するのに本当にお勧めだからフォローのためにいうけれど、アプリ内でどんなに悪口をいわれようと喧嘩しようと、身バレすることはないしスレ立てられても痛くもかゆくもないし最悪アカバンされるだけだから、みんなは気負わず安心して使ってほしい。
ひとの悪口でスレ立てるやつがヘンな奴だと思ってもらって間違いない。

っていうか相手の批判する奴なんて大抵、痛いこと言われたか嫉妬か、どちらかでしょ!

と、ここで特大のブーメランが自分に飛んできたわけです。
つまるところ冒頭、
料理をするだけで褒められてきた男が、私は羨ましくて仕方ないってこと。
だから「女なのに」、会計の仕事につき、収入や名誉に固執している。
会計の仕事は8割以上が男性の職場。そこで働くのは大変だけど、メリットも大きい。週末キッチンに立つ男が重宝されるように、門外漢がそのフィールドで戦うと、「意外性」というところから他と差別化でき、評価されやすいことを知っているからだ。
だから出来が悪くても許してほしいし、「私の仕事じゃないけど、やってやったぞ」感があっても許してほしい。ありとあらゆることを許してほしくて生きている。だから私は人のことも許している。ネットで匿名批判したあいつのこともイラっとはするけど許そうと思う。

でもやっぱり存在するだけで褒められたいし、評価されたい。

やっぱりこの世に最も必要なのは、うんこしただけで褒めてくれるパートナーなのかも知れない。

こんな話になるとは思わなかった。このイラっと感もうんこも、水に流そう。



スキ!押してくれると嬉しいよ

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?