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突き放されても、先生には私の唇について知っていて欲しかった

美容クリニック行ったんですよ。もう四半世紀以上頑張って生きているので、シワもちょっと出て来たし、毛穴の開きがひどいのと、唇がいつも荒れるのとが気になって。あと、お肌の診断がキャンペーンで無料でしたからね。

それで、謎の機械に顔を突っ込んで顔のお写真を右・正面・左からカシャカシャーっと撮られたわけ。もうこんなにフラッシュ浴びることはこれからの人生でないですねってくらい撮られたんですよ。

そしたら、美容スタッフさんに様々な項目で点数をつけられて。平均が50点で、それ超えてれば大丈夫ですって。で、私のお肌、80点とか90点ばっかりなんですよ!てっきり30点とかくらいかなと思ってたら、意外にお肌の滑らかさとか点数高くて。え?マウンティングかって?いやすいません。

で、スタッフさんに「隠れシミが結構あります、日焼け止めはちゃんと塗ってください」「シワはそんなでもないですね」って見せられていって、

気になる毛穴の項目…1点。

1点。

そんなことある?自分では「ちょっと気になるなあ」くらいだったけど、本当はもう目も当てられない状態ってことじゃない?自分では毎日見てるから見慣れてしまって変化に気づかなかったってことですか?

で、スタッフさんも「毛穴…1点。あら。えっと、あのですね、毛穴は遺伝なんですよ。治すの、結構難しい。もちろんレーザーもありますけど、えっと、遺伝なんです」とか言ってる。なんでしどろもどろ?営業してくれよ。もうこれ治らないってこと?

落ち込みながらも、次はドクターの診察を受ける流れに。効果が出そうな施述や、治療の方針を決めてくれるというから、かなり期待して階段を上がり、ドクターに元気よく「お願いします!!」と挨拶をして椅子に座る。

見るからにクールビューティな先生は淡々と「毛穴が気になっているんですね」「シワはまだいいですよ」「シミもまだ予防すれば大丈夫だから」「毛穴は、そうね、肌質的にまずピーリングなどはしないほうがいいですね。レーザーがいいでしょう」と施術について決めてくれた。早い!凄腕に違いない、もう先生の肌自体がツルッツル。会って30秒で信頼しきった私は、肌診断には入っていなかった自分の荒れやすい唇について聞いた。

「唇がすごい荒れるんです!見てください!今も荒れている!」

「そうですね、見ればわかります」

「なぜでしょうか…」

思いがけず冷たい返答をもらい困惑した私の問いかけに、先生はすっと透き通った声で

「それは、あなただけが、知っている(Only you know.)」

と言ってうっすらと微笑んだ。


私だけが…知っている…?


頭がフリーズした。私はこの荒れやすい唇について、もう10年くらい悩んでいるのに。今日は完全に答えとソリューションをもらうつもりできたのに、あろうことか先生はそれ以上何も言わず「では…」と診察を終えようとしている。待ってくれ。

「えっでも先生、何か対策は」

冷え切った心臓を温めるために一言なんとか紡ぎ出す。

「まあ、対症療法的にはステロイド。隣の薬局で買えます」

終わりました。診察、これで終わった。

その後一番気になっていた毛穴はレーザーをと思っていたけどそもそも遺伝で治らないなら意味なくね?と思って何も契約せずにクリニックを出て、その足で隣の薬局に行ってステロイドを買って帰路に着いた。

歩きながら考えた。

私は、私の唇について何を知っているのだろう?

確かに、私はこんなに悩んで苦しんでいるというのに、私の唇が正確にいつ荒れやすいのか、どうしたらマシになるのかなんて知る努力をしてこなかった。10年も。

ああ。

先生は私の、私自身に対する姿勢を見抜いていたんだ。

いやだ、苦しい、何かが違う、理想の状態じゃないんです、と言いながら、対症療法だけして(お酒飲んだり、旅に出たりね)、自分の根本的な苦しみに向き合ってこなかった。誰かが助けてくれるんだと夢を見て、今日まで夢を見て、誰かに助けを求めている私を、先生は見抜いたのだ。

対症療法も長くは続かない。むしろ、長く対症療法だけすると、悪化してしまう。他のところも悪くなったりする。ステロイドの連続使用期間は5日まで。

なんだか途端に恥ずかしくなったし、アホヅラしてノコノコと答えを求めた自分を責めた。他人に頼る前に、自分の責務を果たせよ。自分のことくらい、自分でちゃんと知ってくれ。

でも先生、私は愚かにも未だに誰かに「あなたの唇は、敏感だから、香辛料は控えて、この成分が入ったリップクリーム使うといいわね」と原因も答えも決めつけて欲しいと思っています。



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