見出し画像

月と陽のあいだに 119

青嵐せいらんの章

シノン(5)

 翌日の帰り際、白玲はもう一度シノンに会いに行った。
「神事の時に、ネイサン叔父様から花見の宴のお誘いをいただいたの。シノンも一緒にいらっしゃいって」
シノンは綺麗な眉をひそめた。
「それは大変なお誘いね」
どうして?とたずねる白玲に、シノンが説明した。
「ネイサン叔父様は、皇帝陛下の弟君で地位もお金もある上に、見た目も素敵でしょう。それなのに誰とも結婚しないで、宴のたびに違う美女を連れていらっしゃるの。今の恋人は、ユイルハイ一の美妓ジャスマン亭の香蓮だという噂だけれど、彼女は正妻にはなれないから、叔父様の奥方の座をねらう令嬢は数知れず。叔父様に近づくと、嫉妬の嵐に見舞われるわよ」
 白玲は、ふーんと鼻を鳴らしてシノンを見た。

「おまけに叔父様はお祖母様から睨まれているの。いろいろ因縁があるからね。だからご自分の庇護下にあるあなたが、叔父様と関わるのに良い顔はなさらないでしょうね」
 白玲はため息をついた。そういう社交は自分には向いていない、と顔に書いてある。
「でも叔父様の花見の宴は、貴族や廷臣や大商人が招かれる盛大な宴だから、人脈を作るには絶好の機会よ」
 とにかくまずは女官長に相談しなさいね、とシノンに言われて、白玲は重い足取りで宮へ帰った。

 白玲の話を聞いた女官長は、正式なお招きがあったらお受けしましょうと言った。
「姫様は成人の儀をなさっていらっしゃいませんから、ちょうど良いお披露目になるでしょう」
 そういう手回しができていたかのように、女官長は驚くこともなく、皇后には自分が報告しておくと言ってくれた。白玲は、ほっと胸を撫で下ろした。

 数日後、白玲の元にネイサンから正式な招待状が届いた。女官長が付き添うことを条件に、皇后は出席を許可した。皇后の預かりになっている白玲が軽く見られないようにと、大急ぎで新しい衣装が仕立てられた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?