見出し画像

月と陽のあいだに 91

浮雲の章

月族(2)

 湯気ゆげに目が慣れてくると、女たちの雪と見まごうほどの白い肌と、深い鳶色とびいろの髪が目に入った。白玲はくれいの故郷の陽族の人々は、濃い小麦色の肌に黒い髪をしている。暗紫あんし山脈を越えた祖先も、おそらくそういう人々だっただろう。長い時間をかければ、あの小麦色の肌が、さらしたように白くなるのだろうか。それに集落の人々はみな背が高い。ナダルが特にそうなのかと思っていたが、月族はみな長身なのだろうか。陽族の母の血筋か小柄こがらな白玲は、ニイカナと話すにも見上げていたことを思い出した。

 ゆっくりと湯にかり髪を洗うと、白玲は生き返った心地になった。女たちは、白玲の黒い真っ直ぐな髪を珍しそうにながめ、さわりたがった。
「こんなにくせがないと、髪をうのに難儀なんぎじゃないかい?」
年嵩としかさの女にたずねられると、白玲は長い黒髪を手早く三つ編みにして巻き上げ、かんざしで留めてみせた。
からすみたいにキラキラしてきれいだね」
められて、照れ臭そうに笑った白玲のほほが、薄桃うすもも色に染まった。

 女たちが連れ立って集落へ戻ると、見慣れない青年が男たちと話していた。その姿を見たニイカナは、走り寄って青年に抱きついた。
「無事に着いてよかった。この雪の中、どうしているかと心配したよ」
ニイカナの湯上がりの髪に触れた青年は、まわりの女たちにはやされて体を離した。
「白玲、おいで。あんたたちが待ってた月蛾げつが国の武人だよ」
ニイカナの言葉に白玲が近づくと、青年がひざまずいた。とまどう白玲に、後ろからナダルが声をかけた。
鳩便はとびんで呼び出した同僚どうりょうのホスロです。ここから私と共に、姫様とコヘル卿をお守りします」
白玲が「よろしくお願いいたします」と挨拶あいさつすると、「おまかせください」と青年が笑顔で答えた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?