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月と陽のあいだに 107

浮雲の章

ナーリハイ領(8)

 白玲はくれい素直すなおうなずいた。
「はい、少し。でも疲れたというより、何もかもが夢のようで、今の自分に戸惑とまどっています」
 サジェは微笑んだ。
「先ほどのご挨拶あいさつはお立派でした。姫様は陽神殿で礼儀作法を学ばれましたから、何もご心配なさることはありません。こちらでは輝陽きよう国と違うところもありますが、それはおいおい学べば良いことです。今夜はゆっくりお休みくださいませ」

 頷いた白玲は、思い切ってたずねてみた。
「サジェ様は、お顔立ちがナダル様に似ていらっしゃいますね。お身内みうちなのですか?」
私どもに敬称は要りません、と前置きして、サジェは答えた。
「ナダルは私の息子です。武芸ぶげい修行しゅぎょうばかりして愛想あいそのない子なので、姫様にご無礼ぶれいがあってはいけないと心配しておりました。少しはお役に立ちましたでしょうか?」
白玲は大きく頷いた。
「旅の間中、ずっと気遣きづかってくださいました。それなのに、最後に怪我けがまで負わせてしまって……。
 きちんとご挨拶もしておりませんし、お怪我の具合も気になります。本当はお見舞いをしたいけれど、今は無理でしょう。どうぞ心からのお礼をお伝えください」
承知いたしました、とサジェは微笑んだ。
 やがて夜着やぎに着替えた白玲は、柔らかい布団に包まれて、夢も見ないで眠った。

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