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月と陽のあいだに 23

若葉の章

白玲(2)

 「どうして色が白いとダメなの?」
夕餉ゆうげぜんの前で手を合わせながら、白玲がたずねた。婆様は、小さなわん麦飯むぎめしをよそいながら答えた。
「だめなわけじゃない。人は、自分と違うところがあると、こわがるものなんだよ。白丁はくていは大きい図体ずうたいをしているが、案外臆病者おくびょうものなのだろうさ」
でもイジワルされるのはいや、と白玲は首を振った。
「ねえ、婆様。あいのこってなあに。どうしてあたしは、みんなよりも白いの」
そうだね、と婆様がつぶやいた。
「今夜は、お前の両親のことを話そうかね」
婆様は手を合わせるとはしをとり、冷めるから早くお食べとうながした。

 ささやかな夕餉ゆうげが終わると、婆様は組紐くみひも作りの道具を取り出した。そして、こっちへおいでと白玲を呼ぶと、小さな灯火とうかの下で糸巻きに絹糸きぬいとを巻きながら話し始めた。
「お前の母は、白瑶はくようという村の娘だった。お前と同じ大きな黒い瞳をした、かわいい子だったよ。父は、アイハルという月族げつぞくの若者だった。お前の肌が白いのは、父譲ちちゆずりだ。月族は、私たちとは違う、白い肌と鳶色とびいろの瞳をしているのさ。そういう違った民が交わって生まれた子を、『あいのこ』というんだよ。お前は、父譲りの白い肌と、母譲りの黒髪と黒い目をしている。普通の陽族ようぞくとは違うが、それは別に悪いことじゃないんだよ」
ふしくれだった婆様の指が、ツヤツヤ光る絹糸を手際てぎわよく巻く。巻き上がると糸の端をくくって、穴のいた小さな台に掛けていく。
「悪いことじゃないのに、どうして白丁はいじめるの。いじめられなくても、他の子みたいには仲良くしてもらえない」
白玲が口をとがらせた。

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