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月と陽のあいだに 31

若葉の章

貴州府陽神殿(4)

 生まれて初めての大きな町で、人混みにまれた白玲はくれいは、婆様ばばさまにもたれかかって眠っていたらしい。「起きなさい」と肩をたたかれて、び上がらんばかりに驚いた。その様子に、案内の衛士えじが目を細めた。
 衛士についてくぐり戸を抜けると、その先には白い玉石たまいしゆるやかな坂道が、林の奥まで続いている。陽徳殿ようとくでんのような建物が並ぶ景色けしきを想像していたので、白玲は少し拍子抜ひょうしぬけしてしまった。
「本当に、ここに大巫女おおみこ様がいらっしゃるの?」
小さな声で婆様に聞くと
「ああそうさ。大神殿の本当の中心は、こちらだからね」
婆様が耳元でささやいた。

 白玉石しらたまいしの道の両側の林の中には、木造の平屋ひらやの建物が点在している。麓苑ろくえんにぎわいとは全く違う静寂せいじゃくに包まれて、聞こえてくるのは、こずえらす風の音ばかりだ。それがかえって、この場所の神聖さを表しているようで、白玲の旺盛おうせいな好奇心も、今ばかりは鳴りをひそめていた。

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