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月と陽のあいだに 69

浮雲の章

出奔(1)

 翌朝早く起きた白玲はくれいは、いおりき清め、婆様の祭壇に新しい花を供えた。そして籐籠に財布とわずかな荷物を入れると、薄布のついた笠をかぶって社の森を出た。村人が野良へ出るには早い時間だったが、水汲み帰りの白鈴と行き合った。
「おはよう。早くからどこへ行くの?」
白鈴は水桶を地面に置いて、手をぬぐいながらたずねた。
「街道の宿場町へ買い物に行くの。貴州府に帰る前に、婆様のお供え物を買おうと思って」
「そっか。もうすぐ帰るんだね。婆様のお葬式からずっと働き通しだったから、疲れてるんじゃないかって、母さんが心配してたわ」
大丈夫と、笠の垂れ布を上げて微笑んだ白玲の目の下には、うっすらと隈ができていた。
「あんまり寝てないんじゃない。うちの人に、馬車を出すように言おうか?」
心配そうに顔をのぞき込む白鈴の手を握って、白玲は礼を言った。
「ありがとう。でも、本当に大丈夫だから。気晴らしに、ゆっくり歩いていこうと思っているの。おばさんに、心配しないでって伝えてね」
気をつけてと手を振る白鈴に頭を下げて、白玲は街道を目指して歩いて行った。

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