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月と陽のあいだに 32

若葉の章

貴州府陽神殿(5)

 荷物を解いた婆様ばばさまは、まずはおきよめと言って、湯殿ゆどので旅の汚れを洗い流した。浴槽よくそうにはたっぷりの湯がはられ、薬草の葉をり込んだ石鹸せっけんは、朝の森のような香りがした。
 婆様は、白玲はくれいの体と髪を念入りに洗い、新しく仕立てたころもを着せた。婆様も、薄ねず色の巫女みこの衣を着た。白村のやしろ野良着のらぎ姿ばかり見ていた白玲は、婆様は本当に巫女様だったのだと見直してしまった。
「あんまり見られると、くすぐったくなるよ」
自分をまじまじと見ている白玲に、婆様は笑って言った。
「私だって若い頃は、白い巫女の装束しょうぞくで神殿のおつとめをしたものさ。初めから婆様だったわけじゃないからね」
「私も巫女様になったら、白い衣をきてお祈りするの?」
白玲が婆様を見上げた。
「白い衣を着られるかどうかは、お前次第しだいだよ。これから行儀ぎょうぎ見習みならい、巫女見習いとして修行しゅぎょうして、一人前になれたら、初めて巫女の装束しょうぞくたまわることになる。たくさん勉強しないとね」
そう言って婆様は、白玲の頭をなでた。
「あたし、白い衣をきられるようにがんばるね」
白玲は「みこさま、みこさま」と歌うように繰り返し、ぴょんぴょん飛びねている。二人を案内するためにやって来た巫女見習いの少女が、白玲を見て目を丸くした。
「大巫女様がお待ちです。御座所ござしょにご案内いたします」
そう言ってきれいな礼をすると、少女は二人を林の奥へと導いた。

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