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月と陽のあいだに 7

若葉の章

白瑶(1)

 その年は雪解ゆきどけが遅く、四月になっても暗紫あんし山麓の森には、あちこちに灰色の雪が残っていた。
 白瑶はくようは村の娘たちと若菜わかなんでいた。ふと目を上げると、森の入り口にきれいな色の物が落ちているのに気づいた。一緒にいた友だちに声をかけて近づいてみると、男が二人倒れている。見慣れない形の毛皮の外套がいとうをまとい、同じ毛皮の帽子をかぶっている。緑の中でも目立ったのは、二人の外套がいとうについている色鮮やかな房飾りのせいだった。娘たちは、村長に知らせるために、草原の道を走っていった。

 暗紫山脈を抜ける道は、暗紫回廊あんしかいろうと呼ばれている。月蛾げつが国と輝陽きよう国との間を行き来するには、このけわしい道を越えなければならない。輝陽国湖州こしゅうの西のはずれにある白村はくそんは、暗紫回廊の入り口に近い。そのために、山越えで遭難そうなんした人が、助けを求めてたどり着くことがあった。
 娘たちの知らせを聞いた村長は、男たちを引き連れて草原へ急いだ。そして二人を、自分の屋敷やしきに運んだ。その服装から、二人は月蛾国からの旅人と思われた。着ている毛皮は上等なものだから、あきないではなく、何かの使命を帯びて輝陽国へやって来たのだろう。
 男の一人は、すでに力尽ちからつきて息を引き取っていた。もう一人も凍傷とうしょうい、手足の指がくさり落ちて出血がひどかった。村長は、亡くなった男を村の墓地に埋葬まいそうし、重傷じゅうしょうの男は屋敷のはなれに運んで、手厚てあつく看病した。

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