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月と陽のあいだに 110
青嵐の章
月蛾宮(3)
月蛾宮は、国政の場である外朝と、皇帝一族の居所である内廷の二つの部分からなる。外朝には正殿を中心に、毎朝重臣たちが集って国政を議論する朝政殿や行政を司る官衙が連なっている。
白玲が皇帝に謁見した数日後、その外朝の正殿で、叙位式が行われた。
無数の燭台に照らされた正殿の広間には、月蛾国の文武百官と主だった貴族たちが威儀をを正して並んでいる。真っ直ぐに延びた絨毯の先には、白い大階段があり、その上の玉座には、皇帝と皇后が着座していた。
重い扉が開かれて姿を現した白玲は、顔を上げて長い絨毯の上を進んだ。やがて白い階段の下に着くと、白玲は跪いて深く拝礼した。
「近う」
皇帝の声が頭の上に降ってきた。白玲は立ち上がると、白い階段を半ばまで上がっていった。
「皇子アイハルは、国のために暗紫山脈を越え、命を落とした。
白玲、余はそなたが父アイハルの志を継ぎ、この国のために身命を賭して働くことを望む」
「すべて陛下の御心のままに」
皇帝は白玲に歩み寄ると、皇女の徽章である首飾りをつけた。そして白玲が振り返ると、居並ぶ人々からどよめきが起こった。黒髪と黒い瞳は違っても、白玲は皇后に瓜二つというほどよく似ていた。
「余はここに、アイハルの遺児白玲を皇女に叙す」
その言葉に応じるように「皇帝陛下万歳、皇女殿下万歳」という声が正殿に響いた。
表向き歓迎の意を表しながら、人々は内心当惑していた。皇女がアイハル皇子の子であることは間違いないだろう。しかしなぜ今この時に、わざわざ輝陽国から皇女を呼び寄せたのか。人々は皇帝の意図を測りかねていた。
一方、皇家との縁組を望む貴族は、ほくそ笑んだ。輝陽国育ちの小娘を手懐けるのは容易いに違いない。人々はそれぞれの思いを胸に、万歳を繰り返した。
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