月と陽のあいだに 158
流転の章
妖精(1)
カシャンから戻った白玲は、月神殿を訪れた。皇后に代わり大巫女の座についたシノンと新任の大神官に詫びるためだった。
久しぶりの白玲に、シノンは激しい怒りを露わにした。
「こともあろうに、月の神事の最中に姿をくらますなんて、どういう了見なのかしら。皆がどれほど迷惑したか、考えなくてもわかるでしょう。忙しい時に、あなたを探すために人手を割かれ、近衛からは警備の不備の責任を問われて、大神官様や神官長がどれほど大変な思いをしたことか。
罰は受けてもらいますから、そのつもりでいなさい」
何を言われても弁解の余地はないので、白玲はひたすら頭を下げ続けた。
罰として白玲は、月神殿に定期的に参詣し月神の教えを学び直すことと、神殿の管轄する孤児院と救貧院で奉仕することを求められた。月神殿への出入りを禁じられるかと覚悟していたので、白玲はこの罰をほっとした気持ちで受け入れた。
白玲は読書会のトカイにも手紙を書いた。長い不在を詫びて、もう一度読書会に参加したいと伝えた。
「ヤンジャもカロンも、とても心配していました。たとえ病でも、あなたなら少し良くなれば本を読み、筆をとるに決まっている。だから、病よりもっと大変な状況なんだと思っていました」
返事の代わりに、トカイは白玲の宮へやってきた。
「あなたがいないと、ヤンジャとカロンは分かりきったことしか言わないし、ユイル先生も心ここにあらずみたいで、全然面白くありませんでした。それでも、いつかあなたが帰ってくると思っていたから、読書会を続けてきたんですよ」
普段は大人しいトカイにいきなり文句を言われて、白玲は言葉を失った。
「課題の本がたまっています。皇后府を離れて、もう隠す必要はないでしょうから、本も手紙もここに持ってきます」
白玲は、お願いしますと頭を下げた。
「次の官試を受けるんですか?」
帰り際、トカイがたずねた。
「この一年、宮を離れて街中で暮らしました。私は、この国がもっと豊かになるように働きたいです。貿易や物流の分野で、やってみたいことがあります。もちろんすぐにはできないけれど、官吏になって少しでも人の役に立てるようになりたいです」
内緒にしてくださいねと前置きして白玲が答えると、トカイは初めて笑った。
「ヤンジャもカロンも応援してくれるでしょう。何よりユイル先生は、官試に優秀な成績で合格した方ですし。私に手伝えることがあったら、言ってください」
トカイはそう言うと、帰って行った。
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