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月と陽のあいだに 19

若葉の章

白瑶(13)

 食事をとらなくなった白瑶はくようは、日に日にせ細っていった。母親や姉妹が、交代こうたいで身の回りの世話をしていたが、やがて皆は白瑶の腹がふっくらしてきたことに気がついた。腹の子の父親は、アイハルに違いない。だがこのことを村長が知れば、何をするかわからない。母親は、白瑶が不憫ふびんでならなかった。アイハルが処刑されるまでは、白瑶は気立きだてのいい娘だったのだ。相手の男が罪人ざいにんだからといって、白瑶にも、生まれてくる子にも罪はない。母親は思い悩んだすえに、一族の巫女婆様みこばばさまに、白瑶を預かってくれるように頼みこんだ。
 婆様は母親の話をだまって聞いていたが、出産までならと、白瑶の世話を引き受けた。村長には、野良のら仕事で手が回らなくなったので、白瑶を婆様に預けたと話すことにした。村長は自責じせきの念を忘れたかったのか、大した詮索せんさくもせずに了承りょうしょうした。
 やがて月が満ちて、白瑶は女の子を産んだ。母親と、白瑶の幼なじみの白敏はくびんが手伝いにきた。白敏は少し前に子を産んだばかりだった。体力がない白瑶には、きついお産だったが、産声を聞くとわずかに正気を取り戻した。
「元気な娘だ。お前とアイハルの子だよ」
婆様の呼びかけに、白瑶は「アイハル?」と首をかしげていたが、やがて小さな声で「ハクレイ」とつぶやいた。
「この子の名だね。ハクレイか。良い名じゃないか」
婆様はそう言って、白瑶のやせた手を握った。産湯うぶゆを使った赤子あかごは、しわくちゃな顔をして眠っている。父親に似たのか、肌はきれいな桃色で、村の他の赤子とは違った。
「最初のお乳は、お前がおやり」
そう言って婆様が赤子を抱かせると、白瑶は我が子を胸に押し当てた。

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