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月と陽のあいだに 25

若葉の章

白玲(4)

 翌日も、白玲はくれいは手と顔をどろんこにして帰ってきた。涙をいっぱいめたまま、うつむいて帰ってきたが、婆様ばばさまに泣きつくことはしなかった。
 そして数日後、朝早く起き出した白玲は、婆様が畑仕事で使う小さなくわを持つと、どこかへ出かけて行った。やがて朝餉あさげに戻ってきた白玲は、手も足もどろだらけ。婆様は、白玲を近くの小川へ連れていくと、裸にして川につけ、髪から足の爪先まで何度も洗った。
「早起きして出かけたと思ったら、馬糞ばふんまみれじゃないか。このにおいは、当分取れないね。難儀なんぎなことだ」
 白玲に乾いた服を着せながら、婆様はずっと笑っている。「何をしてきたんだい」とたずねても、白玲は「ひみつ」と言って、小さな人差し指をくちびるに当てた。

 その日の午後、やしろの庭にけ込んできた白玲は、やったやったと手をたたきながら、ね回った。
めずらしくご機嫌きげんだね。何かいいことがあったのかい?」
婆様がたずねると、くるくる回りながら答えた。
「男の子のひみつきちに落とし穴を作ったの。けさほって、野原であつめた馬のフンを、底にいっぱい入れといたら、白丁はくていが落ちたんだよ。白丁ったら、フンでぐちゃぐちゃになって泣いちゃった。まわりの子たちも、くさいくさいって逃げたから、白丁は泣きながらおうちに帰ったよ。いい気味だった」

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