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月と陽のあいだに 4

若葉の章

アイハル(3)

 月蛾げつが国は皇帝がおさめる一つの国である。だがその内実ないじつは、皇帝直轄ちょっかつ領、カシャン領、バンダル領、深水しんすい領、漓江りこう領、領の連合体だった。そのため皇帝といえども、直轄領以外の領に大きな力をおよぼすことはできなかった。
 これに対してアイハルたち若者は、月蛾国全体を一つのまとまりとして、さまざまな問題を解決していこうという構想こうそうを持っていた。各領の領主りょうしゅの目には、この構想はみずからの支配に対する脅威きょういうつった。
 特に皇帝直轄領の南東に広がる深水しんすい領は、内海ないかいはさんで輝陽きよう国に対する地の利をかし、交易こうえきを独占することで大きな富をたくわえていた。しかし皇帝の力が強くなり、月蛾国がひとまとまりになると、その富は各領に分配ぶんぱいされることになりかねない。深水領をおさめるナーリハイ伯爵にとって、これは受け入れがたいことだった。

 皇帝の権力強化に対抗するため、ナーリハイ伯爵も手を打っていた。皇帝の後宮こうきゅうに妹を入内じゅだいさせ、このきさきは皇帝の第一皇子を産んだ。月蛾国の後宮では、幼長ようちょうの順がことのほか重んじられる。たとえ母が正妃せいひでなくても、先に生まれた皇子が皇太子となるのが決まりだった。これによってナーリハイ伯爵は、皇太子の伯父として、次の世代の宮廷で大きな影響力を及ぼすことが可能になった。さらに武力でも皇帝に対抗しようと、たくわえた富で武器を買い入れ、傭兵ようへいを集めて深水軍を組織した。
 冷害れいがい凶作きょうさくが、この対立に拍車はくしゃをかけた。

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