![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/84011698/rectangle_large_type_2_ff2548c7ae111bf418bd9b8fc0d34017.png?width=800)
月と陽のあいだに 62
浮雲の章
コヘル(9)
冷めてしまった茶を淹れかえると、コヘルは礼を言って一息ついた。
「私は、月蛾国に到達した時のために、先帝陛下の親書を持参していました。しかし、それは田舎の小役人には理解できなかったのでしょう。密行者として捕らえられ、月蛾宮に送られました。当時はリーアン陛下もまだお若く、お側には先帝の側近で政治顧問だった大神官がおられました。
密行の疑いはすぐに晴れたものの、大神官は私を、月蛾国に留め置こうとなさいました。ご自分のお命がそれほど長くないと悟っておられたのか、私をリーアン陛下に仕えさせようとなさったのです」
白玲は、何も言わずに聞いている。
「当然、私は拒みました。すると大神官は、月蛾国の間者を使って『楊静が先帝陛下を裏切り、月蛾国に機密を漏らした』という噂を、暁光山宮に流したのです。それをお聞きになった先帝陛下は激怒され、ことの真偽を確かめぬまま、私の家族を罰しました」
ほう、とため息を一つつくと、コヘルはまた茶をすすった。
「妻は囚われる前に毒を仰ぎ、娘は行方不明になりました。私は、二度と輝陽国に戻れなくなったのです。そして大神官の意のままに、リーアン陛下にお仕えすることになりました。幸いリーアン陛下は信頼するに足るお人柄で、やがて私はアイハル様の養育係を仰せつかることになりました」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?