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月と陽のあいだに 36

若葉の章

貴州府陽神殿(9)

 こうして、おおむね静かな日々が過ぎて、白玲はくれいも十二歳の誕生日を迎えた。お子としての修行しゅぎょうを終えて、巫女みこ見習みならいになることが決まった。着慣きなれたえんじのころもを、浅葱あさぎ色の衣に替えて、今度は姉弟子あねでしとして、お子たちの世話をする側になる。わくわくするような、少しこわいような気持ちで、大巫女おおみこ御前ごぜんへ進み出た。
「今日からそなたは、巫女見習いとなる。白村はくそん婆殿ばばどのは、すぐれた巫女であった。そなたも婆殿に恥じぬよう、修行にはげみなさい」
 白玲は深く礼をして、新しい衣を押しいただいた。

 巫女見習いになっても、朝夕のおつとめは今までとかわらない。だが、これからは神学しんがく暦学れきがく天文学てんもんがく歴史れきしなどの学問と、祭祀さいしのためのまいや音楽、さらに植物や薬草についての知識も学ぶことになる。目が回るように忙しい日々にはなるが、白玲は新しい知識にれられる喜びに、胸をふくらませていた。
 そんな白玲の期待きたい裏切うらぎるように、最初に与えられた課題かだいは、古文書こもんじょ書写しょしゃだった。

 大神殿の奥には、輝陽国きようこく各地から集められた文献ぶんけん所蔵しょぞうする『御文庫ごぶんこ』という図書館がある。その地下には、建国以来の歴代皇帝や大巫女、大神官といった人々が残した石板せきばんが収められている。これらは時の経過による破損はそん摩耗まもうが進んだため、先々代の皇帝の命によって、書写しょしゃ解読かいどくの作業が始められた。もちろん専門の文書官がその任に当たっているが、巫女見習いに昇進した者は、その助手を務めるのがならいになっていた。


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