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月と陽のあいだに 33

若葉の章

貴州府陽神殿(6)

 貴州府きしゅうふ陽神殿ようしんでんは、輝陽国きようこく各地から子どもたちを集め、将来の巫女みこ神官しんかんを養成する教育機関でもあった。有力者の子弟してい裕福ゆうふくな商家の子が、行儀ぎょうぎ見習いのためにあずけられることもあったが、白玲はくれいのように、各地の神官や巫女の推薦すいせんでやってくるものもあった。
 十歳の誕生日を迎えると、子どもたちは後見人こうけんにんに連れられて大巫女おおみこ面談めんだんを受ける。そこで許されて、初めて『お子』と呼ばれる行儀見習いになる。白玲は婆様ばばさまとともに、大巫女の御前ごぜんひざまずいた。
一別いちべつ以来、息災そくさいで何よりであった。白穂はくすい便たよりにあったのはその子か」
大巫女の問いかけに、白玲は思わず顔を上げた。途端とたんに、控えていた巫女から、が高いとしかられて、あわてて頭を下げた。
左様さようでございます。お知らせいたしました通り、この子は月族げつぞくの血をひく子。このまま白村に置くのは、好ましいこととは思えませぬ。是非とも陽神殿の庇護ひごをお願いいたしたく、まかりこしました」
 いくつかの下問かもんの後、白玲は行儀見習いとして神殿にとどまることになった。「大巫女様とお話がある」という婆様を残して、白玲は先ほどの少女とともに坊へ戻った。

 遅れて戻った婆様は、白玲を連れて奥を出た。麓苑ろくえん総門そうもんを抜けると、門前もんぜん町には多くの人々が行き交い、遠くから訪れた参詣者さんけいしゃに宿を勧める客引きの声もにぎやかだ。白玲は、色とりどりの飴玉あめだまを並べた店の前で立ち止まった。
「欲しいのかい」
「ううん。でも、こんなにきれいな色の飴玉あめだま、初めて見たから。みんな違う味なのかな」
「好きなのをお選び。これから一緒になる姉弟子とお子と食べなさい」
そう言って婆様は、小さな袋に飴玉あめだまを入れてくれた。それから二人は手を繋いで、あちこちの店を見てまわり、夕暮れの鐘の音の響く中、奥のぼうへと帰っていった。

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