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月と陽のあいだに 67
浮雲の章
コヘル(14)
コヘルが去った後、白玲は茶道具を片づけもせずに、ぼんやりと庭を眺めていた。まだ緑も少ない庭先には、早春を彩る春告げ草の黄色の花が揺れていた。
「お客さんだったのかい」
声をかけられて我に返ると、白敏が笑顔で立っていた。
「婆様に助けられたという人が、お菓子を持って訪ねていらしたの」
婆様はずいぶん人助けをしていなさったから、と白敏が頷いた。
「床に着く前に、婆様は身の回りを片付けていなさったから、あまりやることもないんじゃないかと思ってね。手伝いもせずにごめんね」
とんでもないと、真顔で手を振ると、白敏はカゴからお饅頭を取り出した。
「一休みしてもらおうと思って、お饅頭を蒸したんだよ。玲々が好きだったのを思い出してね」
「ありがとう。おばさんのお饅頭は美味しくて、いつも婆様の分までいただいて叱られたっけ。ずいぶん前のことなのに、つい昨日みたいな気がするわ」
急に涙があふれてきて、白玲は慌てて目をこすった。
「今度帰って来る時には、うちにお泊まりよ。婆様がいなくなっても、あたしたちがいるから。玲々の実家は、あたしの家だよ」
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