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月と陽のあいだに 50

浮雲の章

葬儀(1)

 蒼海そうかい学舎がくしゃから戻った白玲はくれいには、大神殿の仕事が待っていた。三年間の修行しゅぎょうといっても、内容はそれまでとはことなり、実務じつむの勉強が多くなった。大神殿の中の儀式ぎしき詳細しょうさいを学ぶだけでなく、上位じょうい巫女みこ秘書ひしょの仕事を学んだり、神殿以外の人々に接して、その話をじっくりと聞く訓練もあった。神殿の仕事は、陽神ようしん崇拝すうはいを通じてたみ結束けっそくを強めることではあったが、同時に民の日常に寄り添い、その願いやなやみを聞いて祈ることでもあった。民の動向どうこうは、為政いせいしゃにとっても大きな関心事かんしんじだったから、各地の陽神殿ようしんでんとその末社まっしゃからもたらされる情報じょうほうは、暁光山宮ぎょうこうさんきゅうでも重視じゅうしされていた。
 巫女は宗教者でありながら、為政者の耳目じもくとして働くことを求められる。それは白玲にとって、ほこりであると同時に足枷あしかせでもあった。このまま陽神殿につかえれば、大巫女おおみこは無理でも白村はくそん婆様ばばさまのように大巫女の秘書となるか、どこかの州の陽神殿の筆頭ひっとう巫女になり、としを取ったら故郷こきょうやしろを守る役目につく。それが、白玲の前にえがかれた人生だった。
 陽神殿に仕える限り、陽帝ようてい忠誠ちゅうせいくし、その統治とうち疑問ぎもんいだくことは許されない。陽神殿は孤児こじである自分に高度こうどな教育を与えてくれた。そのことへの感謝かんしゃと忠誠はいつも心にある。けれども、もっと広い世界を見てみたい、自由に学びたいという思いは、心の底に強くき上がる。それをおさえることは、次第しだいむずかしくなっていた。

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