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月と日のあいだに 30

若葉の章

貴州府陽神殿(3)

 麓苑ろくえんには白い玉石たまいしが敷き詰められて、石段の上には白木造しらきづくりの神殿が連なっている。その中心には、真東に向いて建てられた陽徳殿ようとくでんがあり、陽神ようしん形代かたしろである神鏡しんきょうまつられている。一年に二回、春分と秋分の朝には、真東から昇った太陽の光が大扉を抜けて、祭壇の鏡に反射して荘厳そうごんな光の輪を描く。その輪の中で、大巫女おおみこが陽神に祈りをささげる儀式が行われる。五穀豊穣ごこくほうじょうや家内安全、家業の繁栄はんえいを願う人々が、礼拝のために長い列を作った。
 麓苑の総門そうもん門前もんぜんには、花や供物を売る店が軒を連ね、食事処や宿を探して集まる参詣者さんけいしゃで年中賑わっていた。
 また麓苑の最奥の山麓と奥との境には、白亜はくあ日輪塔にちりんとうがそびえ立ち、夜明けから日没まで一刻いっこく(約二時間)ごとにかねをついて、人々に時を知らせていた。日輪塔から先は、山頂に至るまで『奥』と呼ばれる神域で、大巫女を頂点とする巫女や神官など、神に仕える人々だけが入ることを許された。

 大神殿に着いた婆様ばばさまは、陽徳殿にもうでると、神域の奥の日輪塔へと向かった。塔の手前、山麓さんろくを取り巻くようにきずかれた石垣に大きな門があって、きらめくやりを構えた衛士えじが守っている。これが奥の神域の正門、朔日門さくじつもんだった。婆様は、門のかたわらの衛士の詰所つめしょへ行くと、取次とりつぎたのんだ。いくつか確認した衛士が、門の奥へ消えていく。婆様は白玲を手招てまねきすると、「しばらくお待ち」と言って、詰所のわき腰掛こしかけに腰を下ろした。

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