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月と陽のあいだに 1

序章

 暗紫あんし山脈は、大陸の中央を東西に走る。万年雪まんねんゆきをいただくけわしい峰々がつらなり、その東には氷河ひょうがけずり出した深い渓谷けいこくがあった。渓谷には冷たい海水が流れ込み、細長い湾を形作った。
 この大陸に、いずれの時代か、人々が移り住むようになった。もとは同じ神を持ち、同じ言葉を話す人々だった。しかし長い月日の間に、あるものは南の平地に田畑を開き、あるものは険しい山々を越えて、北の大地に家畜を追った。
 南の大地に根付いた人々は、太陽の恵みを神とあがめ、自らを陽族ようぞくと名乗った。大河が流れる平原で米や野菜を育て、南の蒼海そうかいの海のさちを得て、豊かな暮らしをいとなんでいた。
 一方、暗紫あんし山脈を越えて北を目指した人々は、広い原野げんやに牛や馬や羊を追った。北の氷海ひょうかいから吹きつける風は、暗紫あんし山麓さんろくに雨と雪をもたらし、台地には麦や野菜が実った。長く厳しい冬を過ごす人々は、さまざまな手仕事のわざみがいた。こうして北の大地に根付いた人々は、月をあがめ、自らを月族げつぞくと名乗った。
 暗紫山脈を越える道はけわしく、深い湾は二つのたみへだてる海となった。こうして陽族と月族は、太陽と月が互いを見ることがないように、長くへだてられて生きてきた。

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