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月と陽のあいだに 114

青嵐せいらんの章

月蛾げつがきゅう(7)

 「コヘル様がいらっしゃらなければ、私はここにはおりませんでした。コヘル様が私に新しい人生をくださったのです」
 コヘルはしばらく黙っていたが、やがて白玲はくれいの目を真っ直ぐに見た。
「あなた様がこの国にいらしたことが良かったかどうか。それはこれから分かってくることです。あなた様の素晴らしさが伝わるには、今少し時間がかかるでしょう。だから焦ってはいけません。きっといつか、あなた様の本当にあるべき場所が見つかります。  
 私はあなた様に幸せになっていただきたい。アイハル様の分まで生きて、幸せになっていただきたいのです」
コヘルのほほれていた。初めて見る涙だった。

 「私は、この場所で頑張ります。ですからコヘル様も早くお元気になってください。これからたくさん教えていただきたいことがあります。これからもずっと、お導きくださいませ」
 白玲はすがるようにコヘルの手を握り直した。コヘルが、大丈夫というように白玲の手を握り返した。
「私がいなくなっても、タミアやサジェがあなた様をお守りします。ナダルもニナもアルシーも、皆あなた様の味方です。一度、タミアの執務室しつむしつにいらっしゃると良い。アイハル様のご遺志いしを受け継ぐものたちがつどっております。あなた様がなさりたいことも、そこで見つかるかもしれません」
 そういうとコヘルは目を閉じた。青白い顔は、ひと回り小さくなったように見えた。
「どうぞゆっくりお休みください。また伺います」
床の上で見送るコヘルに、膝を折って礼をすると、白玲は宮へ帰っていった。

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