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月と陽のあいだに 55
浮雲の章
コヘル(2)
「まず名前の話から始めましょうか。あなた様は、ご自分の名前の由来をご存知ですか?」
コヘルに問われて、白玲は首を振った。
「月族の言葉では、『ハク』は美しいという意味です。そして『レイ』は黄昏、つまり昼と夜をつなぐものを指し、転じて『橋』の意味も持っています。つまりあなた様のお名は『美しい橋』なのです。
お父上は、陽族のお母上との間に生まれる我が子に、二つの国をつなぐ『橋』であれ、という願いを込められたのでしょう。お父上をご幼少の頃からお育てした私には、よくわかります。ちなみに、お母上の『ハクヨウ』は美しい丘、お父上の『アイハル』は暁の明星の意味です。アイハは金星、ルは夜明けとか朝を意味します。私の名の『ル』も朝、そして『コヘ』は鳥。コヘルとは、夜明けを告げる鳥のことで、月帝陛下から賜った名です」
ただの旅人ではなさそうだと、薄々感じてはいたが、月帝から名を与えられるというのは、どういう身分の人なのだろう。父アイハルは、何者なのだろう。
「あなた方は、本当はどういう方なのですか。月蛾国の方とおっしゃいましたが、コヘル様は陽族ではありませんか。一体何が目的で、ここへいらしたのですか?」
白玲は体を硬くして、二人の顔をじっと見つめた。先ほどまで感じていた親しみは消えて、得体の知れない恐ろしさが、背中を這い上がってきた。
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