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月と陽のあいだに 195

流転の章

華燭(3)

 ネイサンが部屋を出ると、白玲は侍女たちの手を借りて白金色の衣に袖を通した。
 白い絹地には、金糸で精緻な地模様が織り出されている。この布地だけでも、どれほどの手間とお金がかかったか想像できない。カシャン家の力があってこその衣装だった。
 わずか十七歳のナイナ姫にとって、この衣装はどんなに重かっただろう。
 細かな刺繍が施された下着の上に、白金色の上着を重ねる。肩にかかるずっしりとした重さは、白玲に改めて皇家の一員であることの意味を教えた。

「まるで、初めから姫様のために誂えたようでございますね」
呼ばれてやってきたネイサンが、黙ったまま白玲を見つめている。
「そっと歩かないと転びそう。お衣装がとても重いの。髪は上げたほうが似合うかしら? この鼻が低くて丸いのが悔しいわ。今日ばかりは母さまを恨みます」
 白玲が頬を染めて言っても、ネイサンは何も言わない。
「一日中洗濯ばさみで鼻をつまんでいたら、もう少し高くなるかしら。婚礼まであまり時間はないけれど……」
 照れ隠しのようなつぶやきに、ネイサンはとうとう笑い出した。
「試してみればいいだろう。婚儀の時に外すのを忘れるなよ」
よく似合っている、と耳元でささやかれ、白玲はますます頬を赤くした。そんな白玲を、ネイサンは後ろから抱きしめた。

 愛する人に抱かれて、鏡の中の白玲が笑っている。嬉しくて楽しくて、このまま時間が止まってしまえばいいと思う。この幸せは、いつまで続くのだろう……。
 白玲は小さく頭を振って、その考えを追いやった。いつかなくなるかもしれないから、今大切に抱きしめようと決めたのだ。そう思うと、目の前がにじんだ。
「嬉しいのに、泣くヤツががあるか」
黒髪にくちづけて、ネイサンが笑った。そうね、とうなずいて、白玲も笑った。

 婚礼の日、ユイルハイは穏やかな小春日和だった。
 自分の宮で身支度を整えると、白玲は皇帝の元へ向かった。月神殿へは、親代わりの皇帝夫妻が付き添うことになっている。
「よく似合う。美しい花嫁になった」
 白金色の花嫁に、皇帝が目を細める。白玲はひざまずいて拝礼した。
「幸せにおなり」
 白玲の手を取って立たせると、皇帝は静かに微笑んだ。

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